朝、目を覚ますと2件の着信と1件のショートメール、そして17件の
ラインが入っていた。
2件の着信は倉持社長と島田くんの妻。
1件のショートメールはなんと島田くんのお母さん。
17件のラインは全て島田くんだ。
僕は寝起きの頭で1つ1つ整理する。着信は後回しだ。
一番驚いたのは島田くんのお母さんからのショートメールの内容というより
その事実そのものだった。
お母さんは、最も古い彼の入院を目の当たりにしている、いわば強者だ。
その強者は去年の事態を受けても動じなかった。しかしその人が
僕に直接連絡を取ってきた。
『具合が悪いようです。度々情けない息子で申し訳ありませんが、
相談に乗ってください。』
安心して帰った昨日の自分を後悔した。
このショートメールを見た後に読んだ島田くんのラインは糞そのものだ。
『漢字ドリルをお願いします。』
『やはり妻は病気だと思います』
『妻の病気のせいで眠れません!』
『何よりも織部さんの健康が心配です!』
『ジプレキサ、ラフロイグ、飲んでも眠れません。』
『いい加減にしてください!ネタバレです。』
『(爆笑している熊のスタンプ)』
『倉持社長に裏切られました』
『死についての誓約書を書きました』
『保証人願います』
『色紙買っておいた方がいいですか?』
『ぽいさ』
『薬が足りません』
『陰謀がうごめいています』
『来るなら虎屋の羊羹を買ってきて下さいね』
『笑っちゃいますね』
『ではまた』 (原文ママ)
この際、全部『ぽいさ』でもいいくらい、訳が分からない。
凄いのはこのラインが6時3分から6時11分までの8分間に
一気に送られていたことだ。
倉持社長に電話したが出ない。妻の声は相変わらず震えていた。
「昨日、泣きながら家に帰ってきたんです」
倉持社長のところから帰ってきた後だ。
「今日、川口さんが来るのでそのとき来てもらえませんか?」
川口さんとは島田くんの大学時代の友人らしい。島田くんが呼んだという。
確実に「不審人物認知拡散網」が広がり始めていた。