島田くんがおかしいと気付いてから結局、毎日、島田くんの家に向かっている。

道すがら、倉持社長から電話が入った。

 

「島田は大騒ぎしてますけど、調べた限りでは単純な話です」

 

倉持社長は苦笑いしながら話しているように思えた。

 

確かにある会社に大きなコンサートの仕事があるかもしれない、という話は

事実だった。「あるかもしれない」とはそれ自体が正式なものではないことを

示している。その現場責任者が島田くんに

 

「今度大きなライブの仕事があるかもしれないから、その時は頼むよ」

 

と頼んだ。「その時は頼む」というのは時期がきたら、ということを

示していると思う。その会社の規模を知っている島田くんは単独で

やるのは無理だ、と想い、これまでの人脈をいかし、多くの人に声を

かけた。

 

「今度、大きな仕事があるから仕事振るので3月はスケジュール

 空けておいてください」

 

つまり彼は正式なものではない、あるかもしれない仕事で

まだその時期がきていないのに、多くの人の3月のスケジュールを

押さえてしまった。

 

ここまでは島田くんは正常だったかもしれない。これまでも

彼は善意のつもりで明後日の方角に走り出すことはよくあった。

しかし規模が違った。

 

さらにその仕事を請け負う会社の社長の意向が島田くんの考えと大きく

違った。

 

その会社の社長は、大きな仕事だからこそ、なるべく自社でやり遂げたい、

フリーや他社の人を使うのは必要最小限にしたい、と考えていた。

 

その社長のところに何件も問い合わせが入る。

 

「島田くんから3月空けておいてくれ、と依頼があったけど、

 その仕事、本当にあるんですか?」

 

社長はたまげた。そもそもその仕事は正式に決まっていない。

だからそもそも島田くんにも正式に依頼していない。

それを社長は問い合わせに対し、そのまま伝えた。

 

現場責任者も社長に大目玉をくらう。その結果、社長と島田くんの

板挟みになった現場責任者の歯切れはすっかり悪くなってしまった。

 

結局、島田くんはその会社にハメられた、と感じ、周囲にメンツを

失った、と思った。

責任を感じた島田くんは3月スケジュールを空けてくれた知人の

仕事の穴埋めをしようと、多くの他会社を奔走することになった。

 

病気に関係ないレベルでいうと、典型的な「仕事のできない人」ぶりが

発揮されている。「大きな仕事」にアドレナリンが上がり、先走り、

トラブルに動転し、その修復の仕方を間違えている。

 

まず、島田くんはフリーでそもそも部外者なのに、ある会社の

決定事項でない情報をばらまいてしまった。さらに島田くんはアシスタントに

すぎない。にもかかわらず独断で人集めをした。そして、そういう、

仕事のキャンセルはよくあることなので「ごめん。なくなった」といえば

たいていの人は慣れているので、「そうですか」と言って済む話だ。

 

島田くんのフランクで人なつこく、思い入れも強く情熱的で

張り切る性格が悲喜劇の始まりだった。