部下を詰める。詰めると言えば営業会議で成果の出ていない部下を責めるというようなイメージでしょうか。成果が出ていない部下に対して間違った詰め方をしている上司が多くいます。一方でまったく詰めずに放置するような上司も見受けられます。


そもそも詰めるは、各自の見込み数字を積むということから生まれた言葉です。誤った詰め方はパワハラ、萎縮させることに繋がります。詰めずに放置すると部下は自ら動くことをやめてしまいます。


・厳しさは必要なのか?
 

想像してください。あなたには大切な人がいます。母親でも兄弟でも親友でもいいです。あなたにとってとても大切な人が病気になったとします。そして明日死んでしまうことになりました。でも、ある薬を飲めば助かります。あなたはどうしますか?当然飲ませますよね?しかし、その大切な人はその薬を飲むことを拒否します。どんなに説得しても飲みません。さて、あなたはどうしますか?……力ずくでも飲ませるでしょう。大切な人だから。
相手のことを想えば想うほど、行動を起こさずにはいられない状況があるはずです。それが本来の厳しさだと思います。

僕の顧問先で研修をしていた時のことです。営業職を集めて講義をしていました。ふと、違和感を覚えました。営業マンの一人がカツラだったんですね。ふつうのカツラだったらよかったのですが、年齢は50を超えているのに若干ホスト風のカツラでした。分け目が気になるのかわかりませんが、前髪が長くてツンツンしていたんです。もちろんカツラは自由ですが、違和感バリバリです。講義のあとに他の社員に聞いたら、誰も突っ込めないとのことでした。僕はその社員を呼び出して言いました。

 

「そのカツラ似合ってないし、印象悪いですよ。カツラは自由ですけど、営業なら清潔感を優先するべきです」

 

なんとも言えない顔をされました。


2週間後の講義で、その営業マンはカツラなしで現れました。禿げ上がってましたけど、きちんと整えられた髪型はとても清潔感がありました。講義後、その営業マンから

 

「正直ばれていないと思っていましたし、自分ではおかしいことに気づいていませんでした」

 

とコメントをもらうことができました。

相手の一時的なモチベーションとかを気にせず、指摘をしないことは相手のためになりません。言うべきことは言う。これが大切です。ただ言い方、言うシチュエーションなどは充分に配慮する必要があります。


・ある程度の緊張状態が好ましい
 

アメとムチのマネージメントは現代でも有効なのでしょうか。目の前のちょっとしたご褒美がモチベーションになることは当然としてあります。叱りつけ精神的に追い込んでしまうとパフォーマンスが乏しく低下するのも当然です。しかしながら少しの緊張がパフォーマンスに貢献するのも事実です。

スポーツ選手にはゾーンがあるという話は耳にされたことがあると思います。スローモーションで見える、外側から自分を眺めているような俯瞰ができた、などなどの話があります。この状態は自律神経と副交感神経が共に高い状態で成立すると言われています。

少しの緊張感と、少しのリラックスによって仕事でもパフォーマンスが向上します。上司に対する信頼感と、成果に対する責任によって醸成されます。会議やミーティングでは成果に対する責務を問う“詰め”は必須です。

緊張がない、または緊張しすぎる状態はパフォーマンスが落ちます。緊張感管理も管理職の仕事です。声を出すことによって自律神経を高めることができます。朝礼で社訓を唱和するという古典的な社内儀礼も、実は生産性向上に一役買っています。


・部下をつぶす詰め
 

何かしらのミスや成果が達成できないときに「なぜ?」と問い詰めたことはないでしょうか。問題や課題に対して原因を追究し、その原因にアプローチすることが課題解決の大原則です。問題が起きた時はWHYを5回繰り返し、根本的原因をあぶり出すという考え方もあります。
しかしながら、部下に対してなぜを繰り返すのは得策ではありません。場合によっては精神的に追い込んでしまい、人格に触れる会話になってしまいます。
 

「なんでそうなったの?」

「なんでやらなかったの?」

「なんで気づかなかったの?」

 

こうした問いは答えにくく、最後には

 

「自覚が足りませんでした」

「意識が弱かったです」

 

など、まったく次につながらない反省の弁しか引き出しません。

生産的かつ成長を促進させる詰めは「どうしたらよかったと思う?」「次からはどのようにするの?」のような、次につながる質問が重要です。どうしたら?の問いかけは、反省ではなく、自分なりに考えさせることで気づきや成長の機会を促します。

なぜ→どうしたら?の問いかけを投げかけるようにしましょう。

厳しさは言ってあげる愛があるから成立する
 

 

浅井隆志