コロナ不景気が到来することによって一気に売り手市場から買い手市場に変容するのではとの予測もあります。しかしながら、買い手市場になったとしても、必ずしも自社にとって最適な人材を獲得できるとは限りません。売り手市場から買い手市場となる場合でも、採用には戦略が必須です。
組織論にはマーケティングという考え方があります。マーケティングは時代に伴って定義がさまざま変化していきますが、主に顧客獲得のための企業活動と捉えておけばよいでしょう。さらにマーケティングにはブランディングという考え方が存在しています。ブランディングの目的はマーケティングの目的を達成するために、選ばれるための戦術と言えるでしょう。
マーケティングは顧客を獲得するためのあらゆる活動。ブランディングとは顧客獲得するためのひとつの技法です。マーケティングやブランディングについてはまた詳しくお話いたしますが、本日は採用におけるマーケティング、いわゆる最適人材の獲得戦略の一部についてお話いたします。
マーケティングには、ブランドカテゴライゼーションという考え方があります。消費者が購買というゴールにたどり着くまでのあまたの中で起こるプロセスを体系化したようなものです。
・知名段階
僕たちは日常的に買い物をします。例えば、革製のビジネスバックが欲しくなったとします。検討する際に、まずは知っているショップに行く。または知っているブランドのHPなどで情報を取りに行きます。この段階を知名段階と言います。その会社や商品を認知しているかいないかがポイントです。もちろん、「革 ビジネスバック」で検索をするので、今までに知らなかったブランドに出会うこともあるでしょう。そうすると知らなかったブランドを知ることができるので、新たなブランドは”知っているブランドグループ”に分類されます。しかし、もともと知らなかった、検索しても認知できなかったブランドなどは、当然購買の候補から外れます。
認知しているブランドは、知名集合と分類されます。
認知していないブランドは、非知名集合と分類されます。
当然、非知名集合は、革バックの欲しい僕にとっては無いものと同じなので、購買の可能性はゼロです。”誰も聞かなければそこに音は無い”という言葉通り、企業はまず認知をしてもらうことが必要です。
・理解段階
さて僕は革のビジネスバックを買おうと思い、いくつかのブランドが候補にあがりました。次のステップはどこのブランドにどのような特徴があるのかを知りたくなります。人は比較検討することによって自己の正当性を導き出したくなるものです。その買い物が正しかったのか正しくなかったのかは、比較検討することで安心を覚えます。今の自分の境遇が適切かどうかを確認するために、平均賃金などを調べるようなものです。
革のビジネスバッグのブランドがこの時点で5つあったとします。でもまだ決断はできません。それぞれのブランドの特徴、それぞれの製品の良し悪し、判断にはまだまだ情報が足りていません。このタイミングでは理解するための情報が必要になります。ですから、実際に店舗に言って確かめる人もいるでしょうし、レビューなどを見て情報収集をする人もいるでしょう。フェーズとしてはそのブランドの理解を深めるタイミングです。提供する側としては、どれだけ情報を出せているかが重要になります。
情報がしっかりと取れ、検討段階に入れるブランドは、処理集合と分類されます。
情報が取れず、検討段階に入らないブランドは、非処理集合と分類されます。
詳しい情報がなければ判断ができないので「よくわからないから辞めておこう」ということに至ります。
・考慮段階
僕は3つのブランドの詳細情報まで得ることができました。次に考えるのが、自分の価値基準にあうか合わないかです。価値基準はさまざまです。安いほうがいい場合もありますし、少々高くても質が良ければ欲しいと思うこともあります。商談の際に携えるビジネスバッグなら、値が張っても「良い鞄をお持ちですね」と思われたいという価値基準があります。ただ出張につかうバッグであれば、壊れるし汚れるしだからとにかく安いものがいいという価値基準で選びます。もちろん価値基準は価格だけではありません。多種多様の価値基準が存在します。
自分の価値基準に照らし合わせて、
合格点のブランドは想起集合と分類されます。
次点の第二候補は保留集合と分類されます。
これはないなというブランドは拒否集合に分類されます。
以上をまとめると、
まずは存在を知ってもらう。その次に理解をしてもらう。その次に価値に合致させる。という流れがお分かりいただけたと思います。
さて、前置きがずいぶんと長くなりましたが、今日のお話は採用です。採用にブランドカテゴライゼーションをあてはめると、採用の効率化が図れます。
・採用の知名段階
いかにしてわが社を知ってもらうか。TVCMなどを流している大手ならこの知名段階をたやすくクリアすることができます。しかし中小企業には高いハードルです。また大企業でもBtoB(法人取引)の場合は、一般消費者には無縁です。大手だからといって知名度があるとは言えません。
一般的にはナビ媒体などに露出をする。企業説明会のイベントに出展する。認知を知ってもらうための活動こそがこの知名段階での戦術となります。
・採用の処理段階
認知の後には理解が必要になります。理解とは業界、その会社の沿革や具体的業務内容などです。
僕は採用のコンサルティングもしております。僕のところに相談に来る企業様、すなわち採用がうまくいっていない企業様の傾向として、この考慮段階で躓いてしまっています。
媒体には数多く出してはいるものの、理解をしてもらうための情報が少なすぎます。
求職者は、仕事(コト)と人の情報を欲しがります。最近の傾向として、仕事より働く人で会社を選ぶ傾向が特に強まっています。自分がこの会社に入ったらなじめるだろうか?という人間関係志向が働きます。解消するには、オフィスの様子、働く社員の様子などを露出させることです。社員紹介ページの充実、写真や動画などのフル活用が成果につながりやすいです。
・採用の考慮段階
最終的に選ぶのは、自身の価値基準と照らし合わせてどうなのかです。特に近年顕著なのが、キャリアが積めるか、自己成長を遂げることができるかという価値基準が広がってきました。御社に入社した暁には、将来はどのような展望があり、どのようなスキルを習得し、ステップアップが望めるのか。これらを体系的にわかりやすく伝えることが大切になります。
セールスの学校が全国で開催している若手教育研修の受講者にアンケートを取りました。入社の決めて第一位は仕事のやりがい、第二位は自己成長でした。条件等はランク外です。
もちろん、採用の成功はこれに限定されるものではありません。社長の情熱だけで新卒を口説いて採用する会社もあります。人気の業界、職種を武器に採用をしている会社もあります。正解はありませんが、注意点は一つあります。それは、判断するにふさわしい情報量を提供できているか否か。どのような素晴らしい会社だとしても、情報が不足していれば検討されません。
・社長、経営者層の顔
・働く社員の顔
・会社が目指していること(理念、ビジョン)
・職場の雰囲気
とくにこれらに気を使って情報提供を心がけてください。
ちなみにセールスの学校でやっていることをご紹介します。
1.社員全員と雑談をする
この際、人事担当や上司は同席しません。最近では内定者と新規面接者の雑談の場なども設けています。セールスの学校の社員紹介ページはこちらです。https://sales-training.jp/content/member/
2.オフィスの机に座ってもらって雰囲気を確認してもらう
実際に横で働く社員を見てもらいます。説明だけではつかめない温度感を大切にしています。希望があればインターン、職業体験もしてもらいます。あとは月一回の会社飲み会もお誘いしています。
3.仕事が強烈に厳しいと伝える
実際はそこまで厳しくないのですが、まるで地獄のようだと伝えています。入ったら「あれ?そうでもないな」というポジティヴなギャップを作り出しています。この世の中では、「聞いていた話と違う!」という不満が原因で離職するケースが多々あります。厳しい話をすると人が採用できないと臆病になる前に、厳しくても入社したいと思ってもらえる魅力を伝えることが大切です。
ご参考ください。
浅井隆志