昔々、自分には知識が必要だと気づいた男がいた。男は知識を求めて旅立ち、やがてある賢者の家を訪ねた。

「あなたは賢者であらせられます。あなたの知識のほんの一部でいいですから、私に分け与えてください。私はそれを大切に育てて、価値ある者になりたいと思います。いまの私は無に等しいということを、私はよく知っています」


賢者は答えた。

「あなたに知識を授けるには、その代わりに、私が必要としているものをいただかねばなりません。私に小さな絨毯をください。私はそれを、われわれの聖なる仕事をさらに進めてくれるお方に差し上げねばならないのです」


男は絨毯屋を探しに出かけた。

「絨毯をください。小さいのでいいんです。私はそれを賢者に差し上げ、賢者は私に知識をくれます。そして、賢者はその絨毯を、われわれの聖なる仕事をさらに進めてくれるお方に差し上げるのです」


絨毯屋は言った。

「あなたの事情や、賢者の仕事や、絨毯を欲しがっている男の話など、私には何の興味もありません。私はどうなるのですか?絨毯を織るには、糸が必要なんです。糸を持ってきてくれれば、お助けしましょう」


そこで男は、糸をくれる人間を探しにゆき、紡ぎ女を見つけてこう言った。

「糸をください。私はその糸を絨毯屋に渡し、絨毯屋は私に絨毯をくれます。その絨毯を私は賢者に差し上げ、伝承者はそれをさらに、われわれの聖なる仕事をもっと進めてくださるお方に差し上げるのです。そのお礼として、私は知識を得ることができます」


女はただちに答えた。

「あなたが糸を必要としているのは分かりますが、私はどうなるのですか?あなたや、あなたの賢者や、絨毯屋や、絨毯を必要としている男の話など、聞きたくもありません。私はどうなるのですか?糸を作るには、山羊の毛が必要なのです。山羊の毛を持ってきてくれれば、糸を作りましょう」


そこで男は、山羊の毛を探しにゆき、山羊を売っている男にこれまでのいきさつを話した。山羊売りは答えた。

「しかし、俺はどうなるんだ?おまえは知識を手に入れるのに山羊の毛が必要なんだろう?でも、山羊の毛を手に入れるには、山羊が必要なんだ。山羊を連れてきてくれれば、協力してやろう」



そこで男はさらに、山羊を飼っている男を探しにゆき、その男に自分の窮状を訴えた。山羊飼いはこう答えた。

「知識や、糸や、絨毯のことなど、俺には何も分からない。俺に分かっていることといえば、誰だって自分の利害のことしか考えていないということだ。だから俺はおまえに、俺が必要としているものについて話そう。俺のその欲求をおまえが満たしてくれるなら、山羊の話をしようじゃないか。その後で好きなだけ、おまえは知識について考えればいい」


「あなたは、何が欲しいのですか?」


「夜、山羊があちこちに迷い出て、困っているんだ。山羊が逃げないような囲いを作ってくれれば、山羊の一匹や二匹、おまえにくれてやろうじゃないか」


そこで男は、今度は垣根を探しにゆき、いろいろたずね歩いた末に、ある大工の家にたどり着いた。大工はこう答えた。

「たしかに私は、そのような垣根を作ることができます。でも、そのほかの細かいことについては勘弁してください。私は絨毯や知識には何の関心もないのです。でも、私には、どうしても叶えたい望みが一つだけあるのです。私のその望みを叶えることは、あなたの利害とも一致するはずです。この望みを叶えてくれないのなら、私は垣根を作りたくはありません」


「あなたの望みとはいったい何なのですか?」と男はたずねた。


「私は結婚したいのですが、誰も私と結婚してくれません。私のために妻を見つけてきてください。妻を探してくれたなら、喜んで垣根を作りましょう」



男はまた出かけてゆき、ありとあらゆる人にたずねた末に、やっとひとりの女性を見つけ出した。その女性はこう言った。

「私はいまあなたがおっしゃったとおりの大工と結婚する以外に、何の望みも持っていない若い女性を知っています。彼女はこれまでずっと、その人のことを思ってきたのです。その男の人が実際に存在し、あなたや私を通して彼女がその人のことを知ることができるなんて、奇跡のようです。でも、私のことはどうなるのですか?誰でも自分の欲しいものは欲しいし、助けを必要としたり、助けが必要だと思い込んだりしていますが、私が必要としているものについては、みんな口をつぐんでしまうじゃないですか」


「あなたは何を必要としているのですか?」と男はたずねた。


「私にはたったひとつだけ、欲しいものがあるのです」と女性は答えた。「それを手に入れないかぎり、生きていても意味がありません。私を助けてくださるのなら、私の持っているものは何でも差し上げましょう、私はこれまでにありとあらゆることを経験してきましたから。私が欲しいのは知識なのです」


「しかし、絨毯がなければ、知識は得られませんよ」と男は言った。


「知識がどのようなものか、よく知りませんが、知識が絨毯でないことぐらいは知っているつもりです」と女性は答えた。


「いえ、いえ、そういう意味ではありません」男は忍耐強く説明した。「あなたの知っている娘を大工のところに連れてゆけば、垣根が手に入ります。垣根が手に入れば、紡ぎ女のために山羊の毛が手に入ります。山羊の毛が手に入れば、糸が手に入り、糸が手に入れば、絨毯が手に入ります。そして、絨毯が手に入れば、知識が得られるのです」


「そんな話はとても信じられませんね」と女は言った。

「少なくとも私は、そんなやっかいなことはごめんです」


男が懸命に頼んだにもかかわらず、女はその頼みを断った。



以上のような困難や、困難から生じた混乱によって、真理の探求者は人間に対して絶望しそうになった。どうして人々は自分の利害のことしか考えないのだろうか。あるいは、たとえ知識を手に入れたところで、それを活用することなどできないのではないだろうかと、さんざん思い悩んだ末に、やがて彼は絨毯のことしか考えなくなった。


ある日、男は市場の中を、ぶつぶつ独り言を言いながらさまよい歩いていた。ある商人が彼に気づき、その独り言を聞き取ろうとして、近づいてきた。


「聖なる仕事をもっと進めてくれるお方に、私は絨毯を差し上げねばならない」男がそのようにつぶやいているのを知った商人は、このさまよい人には何か特別なところがあると思い、声をかけた。


「あなたさま、私にはあなたの唱えている言葉の意味はよく理解できませんが、あなたのような真理の道を歩んでおられるお方を深く尊敬しています。私を助けてください。伝承者の道を歩んでおられるお方には特別な義務があると私は聞いています」



さまよい人は顔を上げ、商人の苦痛に満ちた表情を見た。

「私もあなたと同じように苦しんでいるし、これまでも苦しんできた。あなたは確かにお困りのようだが、私にしてあげられることは、恐らく何もありません。私は必要なときに、糸ひとつ手に入れることのできなかった男なのです。でも、話してみてください。私にできることがあれば、何でもして差し上げましょう」


「慈悲深いお方よ!お聞きください。私にはとても美しい一人娘がいるのですが、ずっと病に苦しんでいて、元気がありません。娘に会ってください。あなたなら娘の病気を治せるかもしれません」


商人の表情は苦しみに満ち、その願いは真剣だった。さまよい人は商人についてゆき、娘が病床に伏している部屋に入っていった。



男の姿を目にしたとたん、その娘はただちにこう言った。

「あなたがどのような人だか知りませんが、私を助けてくださるような気がします。どちらにしろ、ほかには誰も私を助けてくれる人などいないのですから。私はある大工に恋をしているのです」

彼女が挙げたその名前は、なんと男が山羊の垣根を作ってくれと頼んだあの大工なのであった。


「あなたのお嬢さんは、私の知っている、とても優秀な大工さんと結婚したがっています」

と男は商人に言った。娘が大工の話をするのは、病のせいで、実際にそんな人物が存在するとは夢にも思っていなかった商人は、大喜びした。


男が大工のところに行き、この話を知らせると、大工は山羊のために垣根を作ってくれた。山羊飼いは垣根のお礼に、立派な山羊を何匹かくれた。それを山羊売りのところに持っていくと、山羊売りは山羊の毛をくれた。山羊の毛を紡ぎ女のところに持っていくと、糸がもらえた。その糸を絨毯屋に待っていくと、小さな絨毯がもらえた。



男が絨毯を伝承者のもとに持ち帰ったとき、伝承者の賢者はこう言った。


「これでやっと、おまえに知識を授けることができる。おまえは自分のためではなく、この絨毯のために働いたからだ。そうでなければ、おまえはこの絨毯を持ってくることができなかっただろう」




★浅井ノート

ビジネスも、お金を負うとお金を手に入れることはできない。

自分にとってのお客様に、まずは価値を提供する。

するとお金もついてくる。

求められることを提供すれば、おのずと身になる。

当たり前だけど、忘れて井はいけない順番とルールですね。