茶道具の茶入の中でも、古くから

茄子が最上位にあげられるが、

その中でも、最も優れていて名物と

されるのは、天下三茄子 (てんかさんなす)

と呼ばれるものがあり、それは

付藻(九十九髪)茄子、松本茄子、

富士茄子の三つとされる。

 

このうち「付藻茄子」と「松本茄子」は、

静嘉堂文庫美術館の所蔵であるが、

もう一つの「富士茄子」はどこにあるのか。

 

お茶を始めて道具に眼が行くようになって、

茶道具の展示会に行っても、「富士茄子」は

見かけることがないので、どこにあるのかな?

と思いはじめていたところで

 

今回唐物茶入を整理するにあたって、自宅の

図録をあるだけ引っ張り出したが、なかなか

「富士茄子」は見当たらない。

 

どうしたんだろうと思っていたら、

東京国立博物館で「茶の湯展」(2017年)の

図録を引っ張り出して、ようやく見つけた。

 

その「茶の湯展」の図録にあるので

「富士茄子」は、きっと見ているんだと

思うが、記憶は定かでない

 

ただし、当時は変天目茶碗の輝くような

美しさに目を奪われてしまって、

茶入など地味な道具は、本当のところ

よくわからず、興味の対象となっていなかった。

 

それに平成館の展示会場が余りにも広くて、

時代ごとに展示ブースが分けられて、

展示された茶道具も甚だ多くて、

私の受容能力を遥かに超える展示だったので、

一つ一つの道具までは記憶が乏しくなって

しまうのは仕方のないことで・・・

 

それでも、いくつかの唐物茶入は、

小さくても格式・伝統を感じさせ、

人を寄せ付けない威厳を感じたのを覚えている。

 

この図録には、「富士茄子」は、

前田育德会とのキャプションがあり、

名前からすると、加賀の前田家の資産を管理する

財団らしいという検討はついたので、

 

調べてみると、

公益財団法人前田育徳会(まえだいくとくかい)

加賀藩主前田家伝来の古書籍、古美術品、刀剣

などの文化遺産を保存管理する公益法人。

所在地は東京都目黒区駒場にあるとされている。

 

そうなんだ・・・

ということは旧前田侯爵邸のあたりに財団が

あるのかなと推測

写真は、旧前田侯爵邸 洋館

これは和館

 

なるほど、ここに「富士茄子」が保管所持

されて秘蔵されているのかと得心

 

前田利家は、

若いころは暴れ者で、派手な身なりで、

世間からは「ばさら」と言われた人物で

「槍の又左」、「又左衛門の槍」などと言われた。

 

そのためか織田信長からは、小姓のように

可愛がられ、夜のお相手にもなっていたことは

利家の自慢でもあったようで、前田家の記録に

そのことが書かれている。

 

後年、秀吉に臣従して、千利休、織田有楽に

茶を学び、そのため秀吉から、天下三茄子の

富士茄子を拝領したとされている。

 

それはそうとして、それ以前の伝来は

どうだったのかといえば、

もとは足利将軍家の所持する東山御物で、

それが曲直瀬道三に与えられ、その後

信長の「名物狩り」で召し上げられ、

本能寺の変後に、道三の子孫から秀吉に献上され、

それが前田利家に下賜されたらしい。

 

「松本茄子」も、信長が曲直瀬道三に

与えているらしいので、すれ違いながら、

何だか似通った経緯だったのかもしれない。