文化「みんな、……正直か?」
全員「正直でーす。」
文化「本当に正直なのか?正直なんだな。」
知らない人「本当は不正直かもしれません。」
文化「君だ!君が一番正直だ!」
根津甚八と小林薫の2枚看板がいて、
唐十郎の状況劇場が一番ミーハー受けしていた頃に、
初めて観た芝居が「蛇姫様 わが心の奈蛇」。
紅テントに染み込んだ昭和の猥雑な熱気は、
今でも風化されずに「唐組」に引き継がれて、
上演されています。
文化「てめえら、死化粧を済ませないで、どこへ運ぼうってんだ⁉」
青色「焼き場にも時間があるんです。そこでエムバーマーを待ちましょう。」
文化「焼き場だと。よく聞けよ。正直者。大きい兄ちゃんは、水葬をのぞんでいたんだ。」
不正直な社会の中で、最後まで正直に生き続けた唐十郎。
水の詩人と言われた彼が、戯曲の中に残した遺言が、
叶えられますように。
ベニスに行こう。水の都、紅巣(ベニスへ)。
その身をゴンドラのようにのけぞらせて。
悲しい人の名を呼べば、黒い運河を吹きわたる風にたゆたえば、
路地は運河となり、紅灯の怪しいチロリ火は歌姫の吐いた血となり、
水にもつれてたゆたい、どこまでも流れ流れて、
水門を持つ一軒の城にたどりつくだろう。
そこは下谷の菊屋豆腐店。
風呂屋には煮えくりかえる湯。豆腐屋には冷やっこいお水。
そこにもしも亡き人の面影を認めたらば、ここにこそ、
水の都へゆく通底器をみるだろう。
「下町ホフマン」より