監督・脚本 アピチャッポン・ウィーラセタクン
撮影 サヨムプー・ムックディプローム
編集 リー・チャータメーティクン
出演 ティルダ・スウィントン、エルキン・ディアス、ジャンヌ・バリバール
2021年度 製作国 タイ/コロンビア/フランス/ドイツ/メキシコ/中国
上映時間 2時間16分
処理しきれない沢山の情報に囲まれた環境(過剰負荷環境)にいる現代人は、
多くのエネルギーを使うために疲弊して、精神的ストレスを患いやすいとされています。
タイの監督アピチャッポン・ウィーラセタクンが、2014年に京都市立芸術大学ギャラリー
で開催した個展で展示された写真「ゴースト・ティーン」で、現実を直視できずに見て見ぬ
振りする社会的状況を、仮面の上からサングラスをかけた男性によって表現していますが、
本作では目を背けたくても制御できない有害なメモリアの嵐によるストレスによって
引き起こされる幻聴に悩む主人公と、目に見えるものを制限するために村から一歩も
出た事のない男を通して、“妄想の深淵”が描かれています。
「ゴースト・ティーン」
主人公を悩ます「巨大なコンクリートのボールが、金属の窪みに落ちたような音」の
正体が最後に意外な形で現れますが、これがユングのいう救済のシンボルであると
解釈するなら、映画はあくまで妄想の産物でしかなく、劇場の外に出れば、
受け入れがたい現実があることを、監督は強調したかったのではないでしょうか。
人里離れた森の中に住む男と出会った主人公が、記憶について語り合う場面より
男「俺は村を出た事がない。すべてを記憶してしまうから、目に入るものを制限している。
だから映画やTVも観ない。」
主人公「見逃すには惜しいものもあるのでは?」
男「物語は至る所にある。例えばこの石からは男の声が聞こえる。」
「昔の出来事だが波動が残り、この石に刻まれている。」
「石や木やコンクリートはすべてを吸い込む。俺の体にも波動は刻まれている。」
「気付いたんだ どこにも行きたくないと…」
「経験は有害だ 記憶の嵐が制御できなくなる。」