屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう

 

監督・脚本 ファティ・アキン

原作 ハインツ・シュトロンク

撮影 ライナー・クラウスマン

編集 アンドリュー・バード

音楽 FM・アインハート

出演 ヨナス・ダスラー、マルガレーテ・ティーゼル、カーチェ・シュトゥット

2019年 製作国 ドイツフランス  上映時間 1時間50分

 

 

1970年代前半に、ドイツのハンブルグで高齢売春婦ばかり4人を殺害して、腐敗臭放つ

バラバラにした死体と同居していた実在のシリアルキラー フリッツ・ホンカを描いた作品ですが、

監督が世界三大映画祭(カンヌ・ベルリン・ベネチア)すべてに受賞歴のあるファティ・アキンの

作品だけに、ファンタジックな要素が排除された、社会のどん底で喘ぐ人間の声なき叫びが,

汚濁に塗れた映像から痛々しく伝わってくるリアルなホラー映画にに仕上がっています。

 

アル中のホンカが足繫く通う安酒場が、社会から見捨てられた賎民たちの逃げ場所として

シンボライズされていて、当時のドイツが未だに抱えていた戦争のトラウマも垣間見せています。

経済停滞に見舞われていた当時のドイツで、死んだように生きる最底辺の人々のどぶ臭さが、

殺害された娼婦の死臭と相まって視覚から伝わってきて、救いようのない悍ましい主人公を通して、

見たくない現実を突きつけられる後味の悪さは、ファンタジーが席巻する今の映画界に

喧嘩を売ったいう意味で、近年稀にみる意欲的な作品と言えるでしょう。

 

ホンカがシリアルキラーになるまでの生い立ちを描いていれば、もっとリアリスティックな

ホラー映画になったと思いますが、映画にエンターテインメント性を求めようとすると、

これ以上ホンカの人間性を掘り下げて描くことはできなかったのだと思います。