監督・脚本 ジャン・リュック・ゴダール
音楽 ミシェル・ルグラン、ジャン・フェラ
撮影 ラウル・クタール
編集 アニエス・ギュモ
出演 アンナ・カリーナ、サディ・レボ
1962年 フランス
映画の劇的側面を強調するために、12のタブローで構築された、
売春婦ナナの悲哀に満ちた物語は、12章で、『私たちの物語。画家が妻の
肖像画を描く』とゴダール監督自身のナレーションが挿入されるように、
ナナを演じた、妻のアンナ・カリーナの物語でもあります。
12章で、若い男がナナの前で、エドガ・アラン・ポーの短編小説
『楕円形の肖像』を音読する場面があります。
その内容は、画家が愛する妻の肖像を描いていますが、完成が近づくにつれて、
絵の中の妻が、魂を宿したかのように正気づいていくのに反して、
現実の妻は、日に日に衰弱して、絵の完成と同時に息絶えてしまうと言うホラーです。
音読している若い男の声が、ゴダールの声に吹き替えられているのは、
私生活で、妻を演じることを辞めたアンナとの関係が破綻したゴダールが、
監督(画家)として、自分が作り出した映画と言う虚構の世界(絵の中)に
逃げ込んだ女優のアンナとしか関係を保てなくなってしまった嘆きを、
ポーの小説を借りて、告白したかったからです。
<一方、この12章と対の関係にあるのが11章で、ナナが見知らぬ男(ゴダールの
恩師である哲学者のブリス・パラン)と、人生の諸問題に関して哲学する場面を
アドリブで撮ることで、アンナ自身の心情が吐露されています。>
ナナが、物が壊されるように、舗道に廃棄される冷酷なエンディングは、
ゴダールの女優アンナに対する、ある種の復讐ではなかったのかと、
私には思われました。
しかし、『楕円形の肖像』の“その肖像画を見たものは、生き写しとして讃えて
不思議がり、画家の深い愛のなせる証拠と噂しあった”と同じく、
ナナを演じるアンナがとても魅力的に撮られた、ゴダールのアンナに対する
深い愛を感じる映画でした。
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