遺体は語る その1 | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう

14年前に投稿したアメーバ限定記事を一般公開します。

 

互助会の葬祭部に転職が決まり、寝台車に同乗しての実地研修を受けました。

寝台車とは、病院や自宅で亡くなられた方を、葬儀場へ搬送する自動車のことです。

遺体をベッドから運搬用のストレッチャーに移し変える手伝いをしなければならないとの

事でしたので、寝台自動車部で待機している間、前日からの緊張はピークに達していました。

出勤して30分も経たないうちに、出動要請の一報が入り、慌ただしく病院に向かいました。

病室に入ると、シーツで覆われた小さな老婆の遺体があり、遺族の方もいらっしゃいましたが、

私が想像していたのとは違い、重苦しい雰囲気はありませんでした。

運転手さんに催促されて、二人で老婆を脇から抱きかかえ、ベッドからストレッチャーに

移し変える時には流石に緊張しましたが、自分でも驚くくらい遺体に対する恐怖心が湧かず、

冷静に対応出来たことが意外でした。

私が生まれて初めて体に感じた死の重さは、赤子の様にとても軽く、呆気ないものでした。

 

2件目も病院での引き取りになりましたが、恰幅のいい中年男性だったので、

抱え上げるのに苦労しました。

糖尿病を患って肝臓を悪くされていたのか、顔は黒ずんで足が浮腫んでいて、

病気の苦闘の痕跡が残っていました。

老婆のときと違って、親族の方の表情は硬く、重々しい沈黙の時間が流れていて、

息が詰まりそうになりました。

 

2日目は、病院ではなく、法医室に解剖遺体を引き取りに行きました。

病院以外の場所で死亡した場合は、自宅で息を引き取っても、

犯罪性の有無を究明するために、警察によって検死作業が行われます。

検死には、検視、検案、検屍があって、検視と検案は視認検査(検視は検察官や

司法警察官、検案は監察医が行う)だけで済みますが、

検案で死因が特定されない場合は、今回の様に司法解剖にかけられます。

ビルの裏口にある運送会社の集荷場のような場所に車を横付けにすると、

いきなり、全裸で放置された老人の遺体が目に飛び込んできて、度肝を抜かれました。

遺体は、ホルマリン漬けされた標本のようで、人としての尊厳が蔑ろにされて、

とても親族に見せられる状態ではありませんでした。

運び込んだ棺に遺体を納棺すると、葬儀屋の方が、腐敗防止のドライアイス、

消臭のために仏前の焼香に用いる抹香を大量に振り掛けた後、

手際よくあの世への旅装束を済ませました。

自分が死ぬときは、残される者のために、自宅で死にたいなんて

我儘を言わないようにしようと思いました。

 


増堕便所の肉体を脱ぎ捨てたなら


 

 

 

 

 

 

 

 

遺体は語る その2 につづく)

 

 

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