監督 サタジット・レイ
出演 サビル・バナルジー
1955年 インド
ビットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』に
触発されて作られたという本作は、
20世紀の初め頃、
インドの西ベンガルにある寒村に住む
赤貧にあえぐ一家族の日常を、
ドキュメンタリータッチで淡々と描いていく。
『せめて1日2回の食事と、年に2着の服が買えたら』と
嘆く母親のささやかな希望には、
嘗て『清貧の思想』という本に群がった、
何不自由ない飽食の時代に生きる日本人に、
清貧が美徳だなんて戯言を言わせない重みがある。
本作の中核をなすのは、
主人公オプー少年の姉と伯母の死だ。
老いた伯母は、林の中で落ち葉のように枯死していき、
肺炎を患った姉は、風雨吹き荒れる嵐の夜に、
天の怒りを鎮めるための生贄の如く静かに息絶えた後、
姉は蜘蛛に、おばは蛇に生まれ変わって、
愛着の地で新たな命を得る。
サタジット・レイ監督は、輪廻転生と言う死生観を下地に、
生きとし生けるものの命の連なりを、
西ベンガルの自然を通して描くことで、
人を本来あるべき自然の中に回帰させる。
命が軽んじられ、形の見えなくなった死が蔓延する
現代社会の中で、生きる事の意味を見失った人に、
53年前に作られた本作をお薦めしたい。
(2008年4月14日)