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文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

白粉鳩は、春のこぶしの白い花をガツガツ食べ、夏の白蓮のつぼみをたらふく食べて、秋に、でっぷり太って飛べなくなる。マヌケな割に捕まえるのが難しい。しかし、こどものころは行商さんが籠に畳んでよく売りにきたものだ。祖父は、嫌って絶対に買おうとしなかった。わたしはだから、白粉鳩は食べてない。
肉はぷったりと柔らかく、煮ても焼いてもふくいくと薫りがたって、とても美味しいものだそうだ。
それに、美人になる、と言われた。昔から遊女さんとか女優さんとか、後宮さんが好んで取り寄せたのだそう。言ったようにめったに手に入らないから、白粉鳩の問屋さんは儲かったそう。わざわざ白い瓦を葺いて、鳩の御殿と呼ばせたそう。傾城くさい。祖父が嫌ったのは、そんなわけだからだ。
媚態ぶるのが嫌いな、真面目な人だったから。なのに、どういうわけか行商さんはしょっちゅう来た。
お孫さん、孫嬢さんにね、ひとつ、ね。
そんな押し問答をしているのが、玄関から聞こえた。そういう時は、近くにいた誰かが手を引いて、わたしを奥に連れてった。
白粉鳩は、食べると美人になる。血から明るみが抜け落ちて、真っ白な顔になる。色の白さは七難隠すとか、嫁入り前だ、どうかひとつ。
白粉鳩は、食べてしまったら、身体中、どこを切っても真っ白な血が出てくるの。そして、それこそ本物の、お化粧になるの。
昔の女郎さんたちはそんなこと知らなかった。たらたらたらたら落ちてくる白い血を集めて、違うひとが自分の膚に塗った、んだって。