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文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

鉱脈を、枯れた鉱脈を。
この鉱山を遺そう遺そう、後世のために是非遺そうという人たちを、私は今日も案内している。細い道を避けて、団体が通りやすいように。
これは、嘘である。みな、嘘を歩いているのである。鉱山でこんな大きな道はあるだけ無駄さ。意味がないのだ。大切なのは込み入った、白髪のような縮れた坑道だ。なのに。
鉱脈を、枯れた鉱脈を。
誰も、その事に気づかない。
ここは鉱山で栄えた町だ合ったが、とうに廃れて単なる村になっているう。勢い盛んだった頃の夢を看板にして、もう一度嘘で塗り固めようとしているのは、私は大変嫌なのである。
だから、彼らをいつも大きな道へ通す。てくてく歩いて、もときた道に戻す。これでいいのだ。彼らは、なにも得るところがなかったといって安心して帰っていく。
鉱山の再生事業なんて本当にみんな嫌なのだ。でも、交付金をうまくごまかすとか、権利者をゴマかすとかそういうのに便利だか。だから、嘘に一枚噛んでいる。
私はバスに乗った彼らが去っていくのをみている。
記憶はどうなるんだ。
ここに眠っている鉱石はないさ。変わりに、空虚漠々たる骨が眠っている。透明な骨だ。正直者には見える骨なのだ。自分に誠実であろうとするときだけに見える、透明な骨なのだ。嘔吐と歯軋りから生まれた骨。骨だけ遺して、そもそも生まれることが厭われた時間。生命の残滓なのだ。
それが見えないか。ここであえいで死んだ、呼吸した現実の名残が見えないか。
私は今もここに暮らす。縮れた坑道に自分の体を押し込んだ。