文学ing -33ページ目

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

頭蓋骨が無傷で焼け残ったことに、火葬場のひとが驚いていた。立ち会ってくれた監察医さんは、当然ですといった顔。
ヒ素。
たくさんたくさん飲むと、こんなふうに骨が燃えなくなるんです。焼けても残るんです。と言ったそのじいさんに、私は焼けるような痛みを食わされた。
私の怒りは水のように静かに興り、木の葉のように無風に終わった。
従兄の息子が餓死をしたらしい。彼の両親はとうに離婚して、父親は死んで母親は行方知れずだった。
おっちゃんもおばちゃんもボケて使い物にならない。私の親はもっと役に立たない。兄は、家に寄り付かない。そう言えば接近禁止命令された女の子の家の近くで見かけた、と、角の洗濯やの奥さんに言われた。奥さん、なんでそんなことしってるの?
そう、世界の終わりの中心には洗濯やの奥さんがいるのよ。
従兄の息子は、その複雑な生い立ちに吹き上げられた鮮やかな竜巻のごとく、模範的に道を外した。
二十歳にはなっていると思っていたが、いったいどんな一生を送ったろう。
アパートで倒れているのがみつかって、そのときすでに乾いてぴたぴたになったいた、そうだ。ぴたぴた、は、監察医がそういった。
私は、このきれいな頭の骨だけ箱に居れてもらうことにした。浮浪者を供養してくれるお寺がある。この子も、今さらあんなやつらと同じ石の潰されたくないだろう。

なんてことなんてことなんてこと!

なぜこの子がこんな死にかたをしなくてはいけなかったの?いいえ、どうしてこんな生を下さなくてはいけなかったの?
なぜ?くず?くずならいるわ。いくらでもいるわ。どうしてこのこでなくでいけなかったの?誰も、変わったり手を差しのべたりしなかったの?

はい。
私の影が地の側からそういった。
あなたも。
そういって、辺りは塩のように冷えてしまった。