小説「母の死体を焼いた」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

私が死んだあとは、どうかあなた一人で燃やして頂戴。

私の心臓の裏側には、とても汚いものが詰まっていて、体は焼けてもそれは燃え残るに違いない。

だから、必ずあなた一人がそれを見届けて、ごみの日に出して頂戴。そういって母は死んだ。金が無いので。誰も呼ばずに、病院からすぐ火葬場に連れて行ってもらって、火葬場には死人を寝かせておく部屋があり、母はそこに置いておかれた。火葬場にはカフェテリアがあって、24時間人がいて、缶ビールを売ってくれたから、僕は5本ほど買って、母の死体のそばで飲んだ。清水を飲んでいるような夜だった。

死人は半日だか1日だか置かないと、焼いてはいけないのだと言う。仮死に陥っている可能性を避けるために、確実に死んでから焼くのだそうだ。朝になって、僕は自分が1秒間に3日間ほど寝ていたのを知った。係員さんがやってきて、そろそろ、と言う。母の体は箱に入ったまま台に乗せられて、そこまでしなくてもいいんだけど、ゆっくりゆっくりと窯の中に収められた。

母が焼けている間僕はまたビールを飲んでいた。川の水を飲んでいるような昼間だった。

母が熱望していたので。焼けた後の始末は係員さんの好意で僕ひとりにやらせてもらうことにした。スコップを貸してもらって、灰になった母を袋に詰めた。

貴方が心臓の裏に隠していたものってなんなんだ?

確かにそれらしいものはあった。それは握りこぶしほどの真球とおぼしき物体で、白くつややかに光って何の姿も映さなかった。どういういきさつでこれが母の体の中にあったのか。

でも、約束はしたので、僕は次の燃えるごみの日に、その光るのを生ごみと一緒に捨てたのだった。