私小説「枯れていくのを見ていた」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

私は妊娠する度に性格が豹変した。
特に癇癪が凄かった。2番目の子の時、上の子はずっと実家にかくまわれていたほどに。
私は何もかもがむしゃくしゃしていた。いや、そんな、生半可な物じゃないな。
世界の全てを憎んでいた。
妊娠する度に私はそんな人間になった。今でも誉められた人物じゃないのは分かってるんだが、それでも妊娠中の酷さは。

私は、むしゃくしゃした私はある日花屋に行った。
マザーグースのハハードばあさんじゃないけど、鉢植え買うために。
鉢植えの植物がどうしても欲しかった。世界を憎んでたわりには、やったことは些細だと思う。
私は、その鉢植えに一才水をやらないことに決めていた。
水を与えず、枯れて、萎れて、死んでいくところを見ていようと思った。
今から思うとまともな思考とは言えないな。でも、その鉢植えは枯れなかったんだ。

私は水を与えなかった。いっかな鉢植えは青青と生きているんだった。
私はいつまでたっても水をやらなかった。それどころかカーテンの向こう側へ隠して、知らないふりを決め込んだ。

決められなかった。
しばらくして、鉢植えのことを見に行ってみたら、正しく萎れて枯れかけていた。
茶色くなった葉が窓辺にたくさん散っていた。
私は慌てて鉢植えに水をやった。植物はやがてまた青青と生きた。

それから私は、良いことが続くと鉢植えを忘れた。
悪いことが起きる度に、枯れかけた鉢植えの世話をしに行った。
枯れそぼるところを見ているはずだったのに。いつの間にか、嫌なことがあると、必死で鉢植えを生かそうとする自分が居た。

しかし私はついにやらかした。冬に水をやりすぎて、根ぐされしたんである。枯れた茎にはカビすら生えていた。
ああもうだめだ、だめなんだ。そう思って、私は鉢植えを完全に放棄して。

なのに。
鉢植えは生きていた。青い葉が1枚だけ残っていたのだ。
最後の。
一縷の望みを託して私は鉢植えに水をやった。
翌日、変化はない。翌々日、変化はない。さらに次の日、変化は無かった。
もうだめだ。これはもうだめだ。そう思った。
その日、青葉が、首をもたげたのだ!

1枚だけ。
最後の1枚が、水を通した。そして、鉢植えはまだ生きようとしている。
ああ、まだ終わりじゃない。お前も私も。これからが始りなんだ。