悪趣味な夜のように、我々は人に愛情すると言うことをせずに生きてきた。
趣向が近いのか他の店に弾かれるからなのか、つまり掃き溜めってやつで、私たちはまたこの店で砂肝を漁っている。
悪趣味な夜だ。
「そりゃ死ぬのが1番いいやり方なんだな」
といちばん端のカウンターのやつが、皆に届く声で言った。
そんなことは分かっているさ。
つまらない。こんな手応えのない、意味のない夜のような
同じな毎日が嫌なんだったら、死ねばいいのだ。
何故私たちはそれをしないのか?
「正直、分からん」
悪趣味な夜だ。
人生でただの1人も誰かに好意を持ったことのない男が群れて、この先何年生きるか知らんが、恐らく誰も愛することはないだろうに。
それが分かっていながら、なお私たちは生きている。
「おそらく、戦中の人間が自殺をしないのと同じ理屈だ」
いい加減酔っ払った男が適当なことを言った。
「飢えた人間が首を吊らないのはどうしてだ」
そういうことが言いたかったらしい。
酷い飢え。
無いものは渇望する。欠落は、補おうとしてしまうものだ。
「腹が減ったら、死にたくなくなるんだよ。誰が作った仕組みか知らんがさ」
と、言う。
生まれつき臓器や四肢を持っていないように、私たちには感情がない。
何かを好意し、慈しんで自分のものにしたいと言う感情がない。夜だ。朝が来たことすらない、夜ですらない日々なのだ。
だからこそ、求めることは止まない。いつか、あと、何年生きるか知らんが、心から情念を注げる何者かが現れるかもしれない。
悪趣味だ。
そんな期待、と言うことばを使うのさえ嫌になる、でも我々はそれをしながら生きていく。
情けない自分を歩いていく。
もしかしたら誰か好きになれるかもしれない。
夜だ。
この言葉が存在する限り、私はずっと、夜なのだ。