しまいこんだことも忘れるだろうと思っている。色んなことをして生きていれば、そこにしまってあると、そんなことを思い出さなくなる。
そんなことを思いながら、私はクローゼットの扉を開けて、ラックの一番上に置いた箱を眺めている。
私はその中に、もう着ない服をしまった。
そのうちしまったことも忘れてしまうだろうと思っていたのに、まだ、私はこうして扉を開けては、あの時着ていた服を思い出す。
洗濯をしようとして手に取った時。
二人で歩いた夜の匂いがまだ染み込んでいて。
そんなものいつまでも残る訳じゃないのに。
それでももうこの服は着られない。そう思って箱に入れて記憶から隠したのだった。
隠せないでいる。
私はいまだにラックの一番上を見上げては、
ああ、あの中にはまだ夜の匂いが。そう思ってしまう。
そんなわけがない。そんな昔の匂いがまだ残って居るわけがない。
それでも、それでも、私は。
二人して並んで歩いた夜のことを忘れないだろう。
そして、いつまでもいつまでも、そこに哀しい記憶をしまったことを、思い出しては、夜の匂いが帰ってくるわけもないのに、ただ、眺めては夜の道のことを思い出してしまうだろう。
長く生きていれば。きっと、ずっと永い間。