小説「頭を下げる仕事」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

オジサン、そんなに丁寧に頭を下げなくてもいいんだよ。
私はそのオジサンに哀しくなった。きれいにクリーニングされた制服、かっこいい帽子、清潔な手袋、つやつやした革靴。

こんなに丁寧に頭を下げる仕事のひとは見たことがない。

従兄の家の赤んぼうが泣き出して、おくさんが外に連れ出した。
オジサンは、兄の棺を何か、運搬機、とでも言えばいいか、そんなもので、慎重に焼き場に運んでいって、
でいよいよ兄がおかま?焼却炉?の中に入ってしまうと、見たことがないほど丁寧に頭を下げた。私はそのオジサンに哀しくなった。
オジサンのことが哀しかった。

ねえ、どこの誰だか。そんなに頭を下げなくてもいいのよ。
ろくな奴じゃなかったのよ。

幼稚園のころから近所のお店で万引を繰り返していたし。
小学校にはいったら気弱なこをいじめてお金を捕ってたって言うし。
中学生の時は通りすがりの女の子を輪奸して補導されているの。

筋金入りのわるなの。

死に方もひどいの。免許停止処分中に飲酒運転して赤信号を飛び出して、走ってきた車にもろにぶつかってあちらは大破。
兄は首の骨折って死んだだけだけど、相手の方は腰の神経を痛めてしまって、未だに起き上がれないって。

そんな奴なの。だれも悲しんだりしないの。
叔母さんたちは喜んでいるの。厄介払いが出来たって。
でも怒っているの。人様を巻き込んだりしてって。だれも悲しんだりしないの。

なのに、オジサン、見たことがないほど丁寧に頭をさげている。
こんなにきれいに腰を折っているひとは見たことがないの。

このオジサンは、こんな風に毎日頭を下げて、頭を下げて、頭を下げて、頭を下げて。
そうしてお金をもらっていきているんだろうな。

そんな生き方もあるのね。そうじゃない生き方を、したやつもいるから。

兄が焼けている間みんなでカフェテリアで好きな飲み物を注文して待っていた。

私はメロンソーダを飲みながら、またさっきのオジサンに会えるだろうか、と喉の奥が狭くなったように感じた。