小説「笑いごとオバケ」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

というわけで、
りんちゃんとあすほちゃんと3人でよしのちゃんちに泊まった。
よしのちゃんちのお母さんがシチューを作っておいてくれたので、レンジでチンしてロールパンと一緒に食べた。
よしのちゃんちのお母さんは、ご飯は炊いてくれていなかった。
「そそっかしいのよ、うちのお母さん。」
とロールパンをかじりながらよしのちゃんが言う。私たちの誰も、炊飯器でお米を炊く方法を知らない。
「なんで?シチューの日って普通パンでしょ?」
ロールパンをぐずぐすにちぎってシチューのおどんぶりにいれながら、りんちゃんが言う。
「りんちゃんち、おしゃん。」
「え?普通でしょ?」
よしのちゃんちのお母さんは介護士さんで、今日は帰ってこないのだそうだ。
お父さんは、なんだか知らないけど帰ってこないのだそうだ。

私たちはよしのちゃんの新しい家に泊まりに来ている。
それはね、

「キイテキイテ!オバケがでたの!」
とよしのちゃんが大喜びで教えてくれたから。
うっそだー。と私たちは言った。
「でたの!でたの!でたの!嘘だと思うんなら泊まりに来て!」
とよしのちゃんは譲らない。
どんなのが出たの?と訊いても
それはみてからのおたのしみ。

と言って教えてくれない。じゃあ少なくとも見えるのね。
面白そうだから泊まりに来た。お父さんもお母さんも居ないときに泊まらせてくれない、と言って、土曜日に集まれたのは私たち3人だけだった。
それで、シチューのときはパンなのかご飯なのかと、話し合っている。
私の家は、シチューはどんぶりにする、と言ったらみんなが驚いている。
どんぶりなのだ。私のお母さんは、シチューは必ずご飯にかける。小さい頃からそうだった。

ともかく、オバケなの。
オバケは必ず、よしのちゃんの部屋に出るのだそうだ。
引っ越した日から必ず出るので、お母さんに泊まってもらったこともあるそうだけど、その時も出たんだって。
「で、もう教えてよ。何が出るの。」
りんちゃんが、よしのちゃんの部屋に体育すわりしてゆうらゆうらしながら、待ちきれずに言った。
「あのね、ておと!」
「なのそれ。」
「階段登ってくる手の音が聞こえるの。」
よしのちゃんはベッドに座って嬉しそうにしている。
なあんだ。とりんちゃんががっかり。
「そんなのただの聞き間違いじゃない。」
何か見えると思って楽しみにしてたのに。
「大丈夫大丈夫。ほんとに聞こえるんだから。」
「でも、なんで手なの?足じゃないの?」
「うんー。それがね。多分手だと思う。」

ぺたん

「あ。」
私たちいっせいにしっ、と言った。

ぺたん。

ぺたん。

ぺたん。

そうね。例えると、びちゃびちゃの雑巾を床に叩きつけているみたい。
「うるさいね。」
「ね。出るでしょ。」

ぺたんぺたん、が近付いてきたら、(階段を登ってくるの。)
ビチャンビチャンビチャンビャンビチャン
になってきた。確かに、足より手を叩きつけている様な音。
「これなんなの。」
あすほちゃんが興味なさそうに言う。
「分かんないけど、あ、これからこれから。」
びちゃびちゃびちゃ、びちゃ。

そのうち手音はよしのちゃんの部屋のドアを叩き始めた。
びちゃびちゃ、
びちゃびちゃ、
と、いつまでも扉を叩いているの。

「このあとどうなるの?」
「知らない。」
「今、外に出たらどうなるの?」
何にも居ないよ。見たもの、あ、なんにも見えなかったもの。
「ふーん。」
と私たちは一斉に言った。何だろうね、これ。何がしたいんだろうね。さあ。暇なのかな。忙しいわけないじゃない。

手音を聞いてから私たちは満足して、
びちゃびちゃ、びちゃびちゃ、と言うのは雨音みたい。
「西村がゆみと一緒に帰ってるとこ見たやつがいるから、まみことはそろそろ別れそうよ。」
などとおかし食べながら夜中話していた。

外はびちゃびちゃいっている。