小説「鉄男はどうして死なないか。」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

俺たちが殺さないからだ、生かしているからだ。

鉄男の処分について従兄弟たちが集まって、集まったのを口実に酒、飲んでいる。
正直みんな鉄男の事なんかどうでも良いのである。
ばあさんに甘やかされて、何にも出来ない男に育った末の叔父。
結婚も出来ず、働きに出る器量もなく、一生を引きこもり、長兄の伯父さん、私の親、下の叔父さんと順順に面倒を見てやっていた。

その長男の伯父さんが死に。私の親が死に。最後の叔父さんが死に。

じいさんもばあさんもとっくに死んだ。後には鉄男が残された。
本当に残された。
もう、鉄男のためになにくれと気にかけてやる人は、居なくなった。

「何とかして鉄男を殺そう。」
と私たち6人の従兄弟は、話し合う、話し合うと言う口実のために集まって酒を飲んでいる。
本家の大広間。もうここに人が満ちる事はない。
本家の従兄はこの家を壊すと言っているし(自分は県外に仕事と家族を作っている。)、2番目の従弟も別にこんなぼろぼろの家を相続するつもりは無いようだ。
「無い方がいい。目障りだ。」
そうだ、そうだ。と私たちは言った。言いながら、酒飲んだ。仲が良いのだ、私たちは。

「ものすごい寒い部屋に閉じ込めたあとものすごく熱い風呂に入れたら、死ぬらしいぞ。」
と下の叔父さんの従弟が言った。
冗談だ。
何も本当に鉄男を殺そうと言うわけではない。
「でもそれだったら、誰んちで殺しても、警察が来て面倒だ。」
冗談だ。
それに本当に面倒だ。

「酒のませてぐでんぐでんにしたあと、
車でどっか遠い山奥にでも運んで、置いて帰ったらいいんじゃないか。」
「それが現実的だろうなあ。」
と私たちは話す。
冗談だ。

でも冗談にしてしまいたいくらいの厄介が私たちを捕まえて、これから食いものにしようとしている。
なんたってこれから大人一人をどうにかして生かさなくてはならないのだ。
皆それぞれに家庭を持っている。
私だって、こんな老人を引き取るなんて言い出したら家族がどんなに反対するか。

「なんで、鉄男が自分で死なないかなあ。」
と一番若い従弟が言った。
「あいつ一体何が楽しくて生きてるんだろ。」
うるめかじりながらそいつが言うのだ。

何が楽しいわけでなく、誰が好きなわけでなく、隅っこの部屋に引き込もって、与えられたものを食べて、昔のアニメのビデオテープばっかり見ている。それ以外のことはしない。
ばあさんは鉄男をそんな男に育てた。

私は何となく、娘が最近作るようになった紫蘇風味のから揚げが、今食べたいなあと思いながら、冷やを啜っている、脈絡はない。

「自殺って言う単語を知らないんだろう。」
とぽつり、言ってみた。
「案外そうかもな。」
もっと飲めよ、と車座の左に居る従兄が一升瓶をくれた。

楽しい事や、苦しいこともなければ、人は死ぬことも出来ないのだ。
何にもなかった人生は、
何にもないせいで自ら終わらせる事も出来ないのだ。

私たちは酔いつぶれていたが、本家の従兄の采配で、
皆で少しずつ出しあって鉄男を施設に入れよう。
そう結論した。