小説「燃やしてちょうだいな。」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「燃やしてちょうだい。」

 

風呂に入る時にでも外さない私の指輪を子供がじっと見ている。

「これはお母さんが死んだらお母さんの身体と一緒にもうやしてちょうだいな。」

と私は湯船に子供と一緒につかりながら懇願している。すると子供は、

「嫌だ。」

と即座に言うのだ。

 

「なんでよ。」

と聞き返すと、

「だって残しときたいじゃない。」

と言う。オカアサンイズバーニング、の方については特に関心もない様に言う。

 

夫が若い頃に買ってくれた指輪を、外す理由もないから未だに付けている。子供はどんなに安くても、こんなきらきらしたものがお気に入りな様だ。

 

「お願いだから、お母さんが死んだら、私の手にはめたまま私の死体を燃やしてちょうだいな。」

と私は懇願する。

「い、や。」

と子供はすげない。

私には子供が一人しかいない。この子に頼らなくては私の願がかなえられないのだ。遠く遠くどこまでも持っていきたい。夫がくれた唯一の。

 

「もっときれいなものだったら他にも挙げるから。これだけは駄目よ。」

「嫌だ。欲しい。」

「どうして。」

「なんでも。」

「知ってる。」

私は湯気でしっとりと曇った自分の子供の髪の毛を撫でた。そして、そろそろ上がって体を洗いなさい、と言う。

「嫌だ。」

子供は最近何を言っても嫌だとしか言わなくなった。そろそろ一緒にお風呂に入るのも御仕舞かな。

 

子供は、私が夫からもらった宝石に嫉妬している。この子はまだ小さいから、自分に宝石をくれるような相手には巡り合っていない。

そのことに、嫉妬している。もっとも身近なところに居る両親がこういうきらきらしたきれいなものを贈りあっている事。

なんでだかよくわかっていないだろうけど、そういう関係があるんだということに嫉妬している。この子は成長期の恐ろしい嵐の中に飛び込んで行こうとしている。その前哨戦として、両親を疑ってかかるということを、今実践している。

 

「私が死んでしまうことに関しては別に構わないのね。」

と尋ねる。

すべらかな肉体の子供は、何にも言わずに湯船から上がる

いや、ざぶーんというお湯の音がした。