さっき380円のコーヒー代を払ってから、財布にはどれだけ金、残っているんだろうかと思いつつ、俺はコーヒーを飲んで、飲む責任を負わされている気分で、外を見ていた。
為すすべが無かった。
バイト先の売り上げを着服した濡れ衣を着せられてさっき仕事を辞めてきたのだ。無論、追い出されたのであり、俺は断じて着服などしていない。
しかし、店長に糾弾されたときに誰一人して俺を擁護しなかったところを見ると、おそらく着服は組織的に行われていて、売上の行先はやつらの財布の中に違いない。
「あんなことやってたらあの店潰れるぞ。」
槍玉にあげた俺が居なくなれば、売上の着服をしていた奴らは今後どうどうと店の金に手を付けられなくなるわけで。
だって俺が居なくなってもまだ売り上げが減っていたら不自然だろう。だから俺が居なくなったらあいつらだって困るはずだ、と考えるのが、俺に出来る唯一の腹いせだった。
明日からまたバイト探した。あいつら、俺の代わりのバイトが入ってきたら、やっぱり同じことをするのかな。
「やっぱり潰れるぞ、あの店。」
ある程度の損害保険に入っているんだろうが(たとえば停電で売り物が駄目になったときの、保障とかそういうやつだ)
毎日万引き被害に遭っているようなもんなんだから、そう遠くなくあのコンビニは潰れるだろう。
いや、それを見越したから奴らもそろそろ手を引こうとして、俺を着服の犯人にすることで合意したのかもしれない。
どっちみち腹の立つことだ。
しかも、レジの監視カメラの映像に細工までしやがったんだから大したもんだ。そのやる気をどうか仕事に向けてくれ。
と思いつつ、俺は380円のコーヒーを飲んでいる。
窓の外はいろんな奴が歩いていく。何故かランドセルをしょった男の子が一人で歩いて行った。
俺はスマホを出して時間を見る。1時23分。当然学校のある時間だろう。一人きりである。
「まあ、不登校なんて珍しくないしな。」
黒いランドセルの彼は真っ白な顔をして、ややうつむき気味に、べつにどうってことねえけどさ、とでも言ってるみたいに、ずかずか歩いて去って行った。
そのすぐ後ろからフランス革命みたいなそっくりな白い衣装をつけた、二人組の女が歩いて来た。
「ああ、あれがジョセフィーヌとマリアベールだな。有名な。」
白い双子と呼ばれている、この街の都市伝説で、見ると不幸になると言われている二人組だ。なるほど。俺はさっき不幸になってきたところだから、おそらくご利益はない。
髪まで真っ白なお揃いの恰好をして、白い手袋をはめた手で口元を覆いながら、何かくすくす話しつつ歩いていく。
俺はきっと何かのアートパフォーマンスのつもりなんだと思っている。そういうアートもあるのだ。俺はアートには理解がある方だと思う。アートとは普通、理解されないものだから。
押し付けられた責任の様なコーヒーを俺は飲み終わった。財布の中身を確かめる気にはなれなかった
むしろ赤信号を飛び出してみようかという気になった。
いや、相手に迷惑だからそんなことは止そう。
他にすることもないので、俺は身一つで家に帰る。家賃を払う方法は、無い。