小説「週末」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

私が
不要の命、を知ったのは確実にその時だった。
ああ、要らないいのちなのだ、と思った。今ではそんな風には思わない。
でも、そこは集積地だった。
どうしようもなくなった人間の集積地なのだった。

今はあまり見掛けないが、昔は百人でも二百人でもぎゅうぎゅうに収用している老人ホームがよくあった。

入所、と言うのである。その実、収容所なのだった。
私は二ヶ月ほど短期のバイトをしていただけなのだが、どう考えても人間の終着点だ。
そう思った。

生きている人が一人も居ない職場だった。

脳が壊れてしまって、体も頭も働く力を喪って、ただ、寝床に置かれているだけ。
人によってはやたら自分の局部を触ろう触ろうと手だけが動いている人も居た。

私は、おむつ交換の度にその局部を触ろうとするおじいさんの手が邪魔で、ひっぱたいて退けたことなんて、何度あったか分からない。

手だけが動いていた。

それだけが人である証だった。それ以外には、「死ぬ日まで生きている」と言う特徴しかなかったのである、
ただ死ぬ日を待っているだけの日々なのであった。

そんなおじいさんに、必ず金曜日、会いに来るおばあさんが居た。奥さんと言う事らしかった。

おじいさんは寝たきりなので体の形が歪んでしまって、決まった姿勢しか取れなかったから、おばあさんは必ず右側から話しかけていた。

おじいさんは反応しない。

おばあさんはおじいさんの手をとって、親しく話しかけている。
そんなおばあさんは毎週金曜日に会いに来るのだった。

そのおばあさんくらいだった。誰かに会いに来るのは。
そこは集積地だった。

私は、ここが人の集積地なのだと思っていた。私も、きっとこんな風にここに持ってこられて、そして消えて行くのだろう。

そう思いながら、給料をもらってバイトを辞めた。