「あれ、今日早いの?」
私は下着だけで寝ていたので、体を起こすとちょっと寒かった。昨夜あったかかったのは、確実に信行の肉体が近くに有ったからだ。
「今日一限が必修だから。唯は?」
「私はね、今日は午前中は休講なの。」
と昨日の夜信行のベッドの下に脱ぎ散らかした自分の服を探しながら私は応えた。
「信行、ご飯は?」
「朝?いいよ、もう出るし。学食でなんか食うわ。」
と信行が言った。我々の学校の学食にはモーニングが付いている。パンとか、スープとか。
「そう。」
と言って私は服を着なおしたんだけど、眠気は依然としてまだ私の体を強くとらえていた。
「ねむい。」
と言ってあくびをすると、
「やっぱり昨夜無理させちゃったかな。」
と、信行が学校に行く支度をしてやってきて、私の頭を軽く抱いた。額の生え際に唇が当たった感触があった。
「どうして?」
「夜更かしさせたから。」
信行は時々、気にしなくてもいいことに嫌に敏感だ。紳士なのだ、と私は思う。
「もうちょっと寝てたら、」
と言う。
「寝るかどうかは別にしても、まだ出かける時間じゃないから暇だわ。」
「好きにしてていいよ。家帰ってもいいんじゃないの?」
信行はPCを普段持ち歩く鞄に入れながら、そしてそれを持って玄関で靴を履きながら、じゃあ俺は出るね、と言った。
私は信行に合鍵をもらって居るから、私がこの部屋を出た後の施錠の事は心配していないのだ、彼は。
「いってらっしゃい。」
私はセーターだけ着てまたベッドに入りながら言った、信行の部屋は狭いので、ベッドの中から充分に玄関が見える。すだれくらい付ければいいのに、と思う。
「じゃあ行ってきます。」
と言って、信行は学校に行く。
私はもう一回寝ようかな、と思いながら、今日の午後の授業もサボってもいいかなあなどと怠慢なことを考えた。
午後の教授はレポート重視なので、出欠は取らないのだ。欠席しても、ばれないし意味が無い。それにレポートなんてテーマが決まっていればあとは本を何冊か読んだら書けてしまうものだ。
と、言ってもうちの学校の図書室はあてにならないので、私は電車で二駅の市立図書館まで、使い物になる本を借りに行かなくてはならないんだけど。
それ以外の人は、誰かがかいたレポートを見せてもらって、要点だけ抜いてあとは自分の言葉で書き直している。
そういうやり方も確かにあるのだ。でも、私にすでに出来上がっているレポートを見せてくれる人は、居ない。
やっぱり眠いからもう一回寝ようかなと思い、はっと気づく。
もう、すでに、ベッドからは信行の感触が失せてしまっていた。
さっきまで一緒に居たのに、居なくなった途端に信行はこの世から消え去ったみたいになってしまう。そんなさみしい毛布に恨みがましく抱き着きながら、私は午後の講義について真剣に悩んでいた。