小説「それはね。」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「僕が乗ってるときだけブレーキが効かないんだ。」
と彼が話す。
「時田と一緒の時は大丈夫なんだ、時田がブレーキ持ってるから。
でも、僕がブレーキ持ってるときだけ、何故かブレーキが効かないんだよな」
と彼が話す。

彼の話はこんな具合だ。
彼らの小学校には、
わんぱくやま
と言ってかなり立派な築山がある(私も見たが、ほとんど森だ)。
かなり傾斜もある坂道が着いていて、慣れている子なら、
雪の降るこの時期、かなり上手くスキーやスノボをこなして見せるそうだ。
でも、彼はまだ低学年なので、坂の下ら辺でソリ遊びをするのがせいぜいだ。

で、彼のそのソリが、揉んどりうって転んで、彼はわんぱくやまの坂道を、雪の積もった中を、ごろごろ転げ回るのだと言う。
それが楽しくて仕方ないんだと言う。

「それでそんなにびちゃびちゃに成ったのね。」
放課後遊んで、ヌレネズミになって帰ってきた彼の為に私は慌ててお風呂のお湯を張る。
パジャマでいいから着替えてきなさい、と命じた。

「なんで君だけブレーキが効かないの?」
私はこたつに入った彼にホットミルクを渡しながら訊く。
「わかんない。」
と彼。
「時田君は上手に乗るんでしょう。」
「うん。」
「ねえ君、ブレーキを強く押さえすぎなんじゃないの?」

彼らのソリにはスピードダウンの為のレバーが着いている。あまり急にスピードダウンすると、それは転ぶだろう。
「わかんない。」

と彼は真っ赤な顔で笑った。お風呂に湯が溜まったアラームが響く。
今日はレンコンとウインナーのシチューを作ろう、
風邪を引かさないように。
と私は思った。