そこを、吹いている風を掴んでみろ、と沖田が言うのだ。僕は言われたとおりに手を伸ばしたのだが、
「出来る分けねえだろ、ばーか。」
と言われた。
「空を掴むような話ってか?どうしたんだよ。」
「これで3月までに就職先が決まらなかったら俺たちはニートだ。」
高3の2月だというのに僕と沖田は就職先が決まっていなかった。工業高校だから、進学という選択肢は無かった。
それに親がそんなことを許してくれる訳もなかった。だって僕と沖田の成績を見れば、な。
「案外掴めるかもしれないぜ。」
僕は手を伸ばして、そこに合った空虚を手のひらに握りしめてみた、つもりになった。
僕と沖田は就職指導面談の後で(先生にこっぴどく説教された後で、今までの学校生活の態度が悪すぎる、とのことで)、海沿いの魚見台に来ている。
そしてコンビニで買った肉まんを食べながら、波の荒い海を見ていた。果敢なサーファーの姿が見える。そしてそんなやつが、時々カジュアルに死んだりする。
海上保安庁かなんかのいい迷惑だ、そうだ。
「掴んでも風じゃしょうがねえ。金じゃねえと。」
「お、韻踏んだな。」
「なんだ、それ。」
「僕もよく分かんない。」
「お前、風とかじゃなくて、なんか掴みたいものあったか?」
と沖田が食べ終わった肉まんの包み紙をコートのポケットに突っ込みながら言う。
「特にないな。」
「夢とかあったか?」
「いや、そんなゆとりは無かった。」
夢を見るには僕の頭は悪すぎる。夢と言うのはある程度将来の展望が出来る人が見たり持ったりするものだ。
僕みたいな人間のすることじゃない。
「俺ほんとは高専行きたかったんだ。」
唐突に沖田が言った。そして吹いていく風に向かって手を伸ばし、ぐっと、拳を握りしめた。
「やっぱり掴んでも風じゃしょうがねえな。」
「お前、高専なんて行きたかったんだ。」
ああ、と沖田が答える。意外な言葉だった。
「プログラミングの勉強がしたかったんだよ。興味はあったんだ。でも知ってるだろ、俺の数学の成績。」
「僕とそんなに変わらないな。」
「だろ。」
僕も角煮まんを食べ終えて、同じく包み紙を仕舞う。
「無駄なことほど、どうして、やろうと思ってしまうんだろうな。」
と言った沖田は心底傷ついているような顔をしていた。成績が悪い事は僕たちクソガキには致命的だ。生きる資格が無いと言われているようなものだ。
沖田はきっと、今まで教師から言われてきたあんまりな悪口雑言を思い出しているんだろう。僕だって堪えている。
でも僕は知っている。沖田はみんなが思っているほど強くもなければバカでもない。
「ともかく就職先だ。」
「ああ。俺ニートになるくらいなら家出てけってじいさんに言われてるからな。」
「ニートどころかホームレスかよ。おまえんちのおじいさん怖いからな。」
「リアルに怖いよ。」
僕と沖田は同時に手を前に伸ばし、もう一度冷たい風を握りしめた。サーファーは高波に乗り損ねて、思いっきり海に呑まれていった。