小説「虹は立てり」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

海の中から虹が立った。私は、急に内臓を誰かの手で露わに剥かれたような恐怖感に襲われ、鎮めるために持っていたタバコを口に運んだのだが、折悪しく霧雨のために、火は消えていた。

 

霧が降るくらいだから虹も立つのだ。そう考えると、なんだか皮肉な感じがする。

 

でも消えてしまったタバコは砂浜に捨てるに捨てられない。私は燃えカスを指に挟んだまま、手を、捨てようか、捨てまいか、とのろのろ動かしていたのだが、

仕方ない、と思ってずっと持っておくことにした。

 

今日は(一応)第一志望の大学の入試の日だ。もちろん、すっぽかすつもりで私はこの浜辺にやってきている。

そこへ、人を馬鹿に仕切ったように、煌々として虹は立ち上がった。私は自分の中の何かを人の手によって暴かれたような不安に襲われて、とっても不愉快だった。

 

はいはい、受かるはずがないの。

なのに何故こんな栄耀とした虹が今私の目の前にあるというのだろう。まるで、おとなしく会場まで行って来い、と無言の威圧をもらっている様じゃないか。

私はとても不愉快だったけど、右手に燃えカスのタバコを捨てられずに持っているので、新しいタバコを出してきて吸う訳にはいかなかった。

 

タバコはバス停のすぐそこのコンビニで買った。酷くまずい、こんなもの、どうして人は買っていくんだろう、と思っている。

普段からタバコを吸っている訳じゃないから適当に買ったのだ。碧いパッケージ。味もへったくれもない、煙、と言うだけだ。

 

虹はしつこいくらいにそこに在った、その光が、消えたかと思えばそこにあり、あるかと思えば目を凝らしても見えない、

 

ワタシハオマエダ

 

とでも言いたそうな、曖昧な状態で、しかし確立とした状態で、虹はしつこいくらいクリアにそこに立っていた。

今更私にどうしろっていうのよ。

 

と私はそいつに行ってやりたかった。はいはい、可能性はゼロじゃないと言いたいのでしょう。ゼロだよ。ほとんど。無理だよ。うかりゃしないよ。

それでも私に、前に進めと言うのか。

 

諾。

そう、私はいつまでもこの浜辺にとどまっている訳にはいかないのです。可能性が無くても、先に進んでいかなくてはならないのだ。

「不条理だわ。」

と私はいっかな消えようとしない虹に向かっていった。虹は相変わらず

 

ワタシハオモマエダ

と言って私の心臓を脅かすのだ。私の心がドキドキとして止まらずにいる。希望は無い。しかし希望を持ちたいという心を、止めるすべを私は持たない。

 

可能性なんてないのだ。私の未来に可能性なんて何にもないのだ。そんな私の心臓に、撫でるように、遠ざかるようにして、虹はいつまでもいつまでもそこに在った。

 

出来る事ならいつまでもその虹を見ていたかった。でもそんなことは出来ない。可能性の権化にすがるつもりなんて私にはない。

でもあまりにも顕な虹だったので。私は燃えカスのタバコを、一縷の望みをかけてもう一度吸ってみた。

燃えカスの味がした。

「私はお前だ。」

私は虹に向かってつぶやいた。でも私はお前よりはもう少し、長くここに居る。私はともかくもこの虹が消えてしまうまでは、浜辺から一歩も動いてやないぞ、と強く誓った。

 

「また別の学校うけりゃいいだけの話なのよ。」