「それもこれも、親が良いからだ。」
なあ、君はよくそう言っていたよな? あれは一体どんな気持ちで言ったんだ?
俺も人の親になったよ。
君が俺を視ていた時と同じ年齢に達した。
俺の子の事は心配しなくてもいい、誰にも似ずに優れた男だ。
なあ、
君は一体どんな気持ちであの言葉をはなしたんだ?
「親が良いからだ。」
そう言って君は笑っていたよな。
俺は凡庸な男だ。だが君は俺を誉めたな。成績表が学年一位なんて田舎の中学では何の意味もない。
だが君は俺を誉めたな。
「それもこれも、親が良いからだ。」
と言って酒飲みながら言ったよな。
その君が、今は居ない。
俺も人の親になった。君と同じように息子を得た。
今日奥さんから聞いたよ。
何もかも整って優れたお子さんですね
そう学校の校長から言われたそうだ。君は今の俺と同じ気持ちになったのか。
なあ、
君は本当に自分が優れているからだと思ったのか。
俺はそうは思わない。
俺の息子は、君の孫は、只持って生れた霊に従って生長したんだ、俺だって君だってそれは変わらない。
俺たちは常に身一つに宿った霊以上によんどころを持たないものだ。
俺が今そう言ったら君はどう感じる?
感じる為の君の神経はすでにない、死んだからな。
だが俺は今君に話したいことが山ほどある。
俺の息子が俺と同じような懊悩を強いられようとしている、
今の俺が嘗ての君と同じような逡巡の前に立とうとしている。
なあ、君は本当に自分が優れていると思えたのか? そして俺にもそうあれと言うか?
父は死んだ。
自分の言葉は空を哭いて何処だか解らない場所へぼたぼたと落ちる。