小説「宅守神の無い家に」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

次世代が新しい家を作って引っ越すと、その家のヤカモリガミも一緒になって新しい家についてくるから古いい家は朽ちていくのだ。

 

私のおじいちゃんの家はまさにその典型で、

瓦は落ちて土壁ははがれて中の竹なんかがもろに見えていて、窓ガラス割れているし雨戸は朽ち果てているし、

 

お父さんが家を建てて、おじいちゃんが病院に入ってからあっという間にそんな風になったらしい。

お化け屋敷なのだ。

どうみてもおばけやしきなのだった。

「お前の家お化け屋敷だな。」

と同級生によく言われている。だから私はそんなとき、

「うん、そうだね。」

と答えるようにしている。実際はお化け屋敷ではない。でもお化けではないものが、居る。確かに、居た。

だから何もいない廃墟とは違うのだった。

 

小学校5年の夏休みに、私は一人でその、おじいちゃんの朽ちた家による懐中電灯を持って出かけて行った。

「おまえんち、お化け屋敷なんだろう。」

とその時の同級生にからかわれたのが悔しかったので、

「ああそうだよ。昔せんそうでしんだご先祖の霊がでるんだ。」

と私は適当な話をしたのだ。そうしたら、だったら言って確かめてこいよ、と言う。気の進む話じゃない。

でも確かに戦争に出かけて行って若くして亡くなったおじいちゃんのきょうだいが3人もいて、

一人くらい出てきてもいいんじゃないかなと思った私も、なめていたと思う。

だから夜、いいよ、じゃあ確かめてきてやるよ、と売り言葉にかいことば(という言い方をすると一応知っていた)で私は自転車に乗って朽ちかけたおじいちゃんの家まで行ったのだった。

 

私は、どうやって幽霊が出ることを証明しようか、誰も住まなくなった家の門長屋の前に立って途方に暮れていた。

夜8時過ぎだったけど、私はクラスの安田君から宿題おしえてほしいと言われたとウソついて自転車で出てきたのだ。あんまり長くなると困る。

私が今日ここに来て、それで幽霊を見たといっても誰も信じないだろう。一応デジカメは持ってきている。

適当にうつして、何か入り込んでくれたらいいんだけどなと思っている私も、まさか何かが本当に出るとは思っていない。

 

「何をしているの?」

と私は通りかかった近所の人に声を掛けられた。近所の人だったと思う。夏だったから、白い浴衣を着た若い男の人だった。夏だから、浴衣着たりするだろうと私は普通に思っていた。

「おばけの写真撮りに来ました。」

私はなぜかその知らない人に普通に答えていた。幽霊が出るかどうか調べに来ました。

「ああ、それだったらね。お化けはいないから安心して帰りなさい。」

とその人は言う。

「どうしてですか。」

私はその知らない人に聞いた。

「君の家の裏には笹薮があるでしょう。

笹が風に揺れる音は悪いものを払うから、お化けや怖いものはこの家にはいないよ。

ただもっと怖いものが住んでいるから、友達にはそんな風に言っておきなさい。だからもう日が落ちて遅くなるから、安心して家に帰りなさい。」

私は途中まで一緒に行ってあげよう。

と言ったのに、自転車に乗って振り返ると、そこには誰もいなかった。

 

「そりゃあ、お前、ヤカモリガミさんだ。」

後年、高校生になってからだったか。初めてその時の話をしたときに父はそう教えてくれた。

「やかもりがみ?」

「宅守神。家を守る神さんだ。

家を守るって言ってもその実家の人間につく神さんだけえな。そうか。わしが家を建てたときにはもうお前についとんさったか。」

お前も将来立派な家を作るだろうで。と父はよくわからないことを言ったのだった。

 

でも家の中には確かにもっと怖いものが住んでいた。生活保護を打ち切られた親子が勝手に入り込んで住んでいて、数年後、全員が餓死しているのが見つかった。