私はたいせつにたいせつに閉じ込められていたのです
と榮妃は言った。
私は妃の身位でしたからね。それはたいせつに閉じ込められていたのですよ。
誰に?
と私は榮妃に聞いてみたかった。外は石が落ちてくるようなどしゃぶりだ。こんな夜に直井くんはまた公園の遊具の下で、ただ、しのいでいるのだろうか。
先生は直井くんを助けてくれないと言った。そして私も助からないと言った。そして榮妃は、たったひとりで、助からなかった。
貴方を閉じ込めていたのは誰? 貴方はそれで良かったの? 貴方はそれでしあわせだったの?一体誰が貴方をたいせつにしたというの?
貴方はあなたの一生の中で誰にたいせつにされたというの。
“ええ、わたしは一生涯誰にもたいせつにされなかったわ。そんな謂れはないのです。
わたしはただ居ればいいというだけの存在ですからね。わたしは生涯をたいせつに閉じ込められて生きていました。
そうする以外にしようがなかったのです。
わたしはわたしのこころ一つの外に出たことがありません。わたしのみひとつにそなわったこころだけがわたしのものだったのです。
そこだけが、
私が生涯入っていた牢だったのです。わたしは満足です。だからこそ自分がおもっていたような逝き方を遂げることができましたからね。
わたしにはわたしのこころひとつ以外にひつようなものなど無かったのです。貴方は如何ですか。
貴方は何を持っていてこれ以上何をのぞんでいるのですか”
「消えたい。」
私は先生にも言った、直井くんも同じように考えている。夫には言えない。でもあの人にはもっと言えない。
「私は消え去りたい。」
貴方の様に。
みひとつに宿ったこの魂と一緒に消えてなくなってしまいたい。それ以外に私が此処から外に出ていく方法なんて思いつかないもの。
「私は私の心以外のものに閉じ込められている。」
私は呟いた。貴方とは違うのだ。私はでていくことが出来ない。貴方とは違う。自分の意志で出て行かなかった貴方とは違う。そしてそれに満足している貴方とも猶違う。
わたしはたいせつにとじこめられている
そして此処から出ていこうとも思わない。わたしは自分を最低な人間だと思っている。自分の心に従うことも出来ない。だれかのために生きることも出来ない。
ただわたしは牢に入っている。雨が私を閉じ込めている。でも雨は私の上には降ってこない。わたしは雨に降られないようにたいせつにたいせつに守られている。
なのにわたしは其処から出ようとしている。そしてわたしは其処に留まろうとしている。
意志も意図も関係ない。私は惰性に飲まれて今もこうして何もかもを雨のせいにしている。直井くんのことを案じながら。
私には行きたい所がない。しかしここにとどまっていることも出来ない、私はどこにも腰を落ち着かせることが出来ない。
私の思考の中にあの人が居てしまう。だからあなたとはもう一緒にいられない、
そう言ったのに、夫はただ笑っているだけだった。