直井くんは真っ青な顔をして私の家にやって来た。
無理もない。
このどしゃ降りのなか公園の遊具の下でビニールシートにくるまって夜を耐えていたのだから。私んとこに来れば良かったのに。
わるいっすから、
なんて言って彼は三日もその夜に耐えたのだ。
「ともかくも、お風呂つかって。」
私はなかば命令した。うっす、と言って直井くんは雨ですっかり色褪せてしまったみたいな体を抱えてふらふらと風呂場に向かう。私は何かすぐ食べられる物を作ろうと思った。
アスパラと、ベーコンを炒めてマーガリンを延ばしたトーストに乗せてチーズも乗せて、もう一枚パンを被せてフライパンで両面を焼いた。ホットサンド。
コーヒーを入れてポットを熱に掛けたまま待っていたら、お湯を吸い込んだんじゃないかってくらいほかほかになってすこしふっくらした様にさえ見える、直井くんが出てきた。
「ごめんね、米がたべたかったでしょうけども、取り急ぎお腹空いてると思って。」
私はサンドイッチのお皿をテーブルに着いた彼の前に出し、カップにコーヒーを入れてあげた。なんでもいいっすよ、と彼は疲れた声で言って、
「いただきます。」
やっぱりお腹空いてたみたいで分厚いパンに勢い良くかぶり付く。
「オムレツくらいだったらまだ作れるけど。」
「いや、いいっすよ。悪いですから。」
確かに直井くんがうちに来るときはご飯の支度は彼の担当だ。
でも直井くんはこのところ具合いが良くなくてなかなかバイトに来られないのだ。
彼は、
未だに彼を病人にした人間たちと戦っている。
「いいの、気にしない。私だって何にも出来ない訳じゃないんだから。
きのこの玉子スープと言うてもあるんだけど。」
私は冷蔵庫の中身を点検しながら聞いた。
「…スープで。」
「おっけ。」
私はさっきの残りのベーコンを細切りにして小鍋で炒め、きのこと水とコンソメの元を入れていたら、
「死にたいっす。」
と直井くんが言った。
「無理もないよ。」
「俺の何がわかるんすか。」
振り向いたら、彼はパンを食べるのを止めてテーブルに顔を立てる伏せ、両拳で額を支えながら小さく震えていた。
「あなたは死にたいくらい誰かを好きになったりするんすか。」
「私は…」
私はあの人の事を思い返した。そして榮妃のことを、考えた。
私は自分が死んでしまっても構わないくらい、あの人の事を考えているだろうか。
“榮妃の書き散らした文の中で、蓮、と言う文字が皇后の神経に触れる元となった、
と言うか、
皇后はあえてその文言が文の中に入っていたことを喜んだろう。
むかしを想えば池に蓮を臨み、
いま夏、蓮は盛りならん哉、
なんすれぞ蓮を待ち再びまみえんことを、
こんな文句が書き散らされた無駄紙を宮女の一団がみつけて当然皇后に届けたのである。
この蓮とは如何なるものをさしてか。
榮妃は皇后に錐の様な声で糾弾されていた。
不味いことに宮殿内には蓮の咲く池が無いのである。”