私小説「プレッシャー」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

君は耐えている。

君は午後三時に学校が終わる。
友達と、田んぼの横の水路に入り込んで、蛙やザリガニを捕まえて、泥だらけになって帰ってくる。

君はズボンとパンツと靴下を脱いで、自分で新しい服に着替える。
そして自分の部屋で大好きな漫画を読む。

君は五時になると母親に呼ばれる。

君は台所のテーブルで母親と宿題をする。君が平仮名の書き取りをしている間、母親はなんだか、よくわからない文字をノートに書き写している。
君はそれはなに、と聞く、母親は、外国の言葉、と顔を挙げずに答える。

宿題を終えると、君は一人でお風呂に入る。その間に母親はニュースを見ながら夕飯を、作っている。
今日の夕飯には君の嫌いな玉ねぎが入っている。
君はお風呂から上り、パジャマに着替えて、母親に叱声されて涙を流しながら玉ねぎを食べる。

夕飯のあと、
母親が跡片付けをしている間、君はちいさな弟の面倒を見る。
危ないものに手を触れないように、口に入れて飲み込んでしまわないように。

君は時計が読める。
七時五十分になるとゲームを止めて歯を磨きに行く。
そして弟と母親におやすみを告げると、明日の時間割を揃えて目覚まし時計をセットし、

そして君の今日が終わっていく。

君は枝尋き樹木。空が君の上に覆い被さっている。

君は耐えている。自分の枝にのし掛かってくる青空の、重さに耐えている、深く根を張って、幹を太く肥えさせて。

どうか、君はしなる事を覚えなさい、折れないように、そよぐだけでなく、固まる事でなく、それを往なす事を覚えなさい、常に砕けぬ青竹の様に。

君は耐えている、僅かに七歳の君が此れだけの事に耐えている、
そして耐えさせている、

私がいる。