小説「痛覚」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

目を覚ましたら肩が、痛くてほっとした。

ああ、私にはまだ痛くなる肩が残されている、何もかも無くなった訳じゃない。

肩の痛みを感じる意識が残されている。全てが馬鹿になった訳じゃない。
私はまだ自分では感じ取って自分で考え自分で結論する力を持っている。その結果現場は最悪を維持したまま順調な推移。

疲労に疲労を尽くして床で眠った後私はそんなことを思って体を上げたのだった。
勿論肩に終わらず首や背中が激しく痛んでいた。そのなまくらな痛みの渦中で私は、

ああ、生きているんだな、と思う。生きれば疲労もするし苦痛も感じるだろう。
隣の老人は寝てばかり居るけどあれはまだ痛覚を感じているだろうか。

最近あまり、死にたいと思わなくなった。現場は全く改善しないまま最悪のレートの下から五段目辺りを順調に運航している。

仕事はままならないし隣に住んでいる結縁のある老人二人のはかばかしくない病状ははかばかしくないまま今日も元気に寿命を進延している。
し続けている。私は彼らのお粥を煮てる。
私の疲労は大体そんなことから起きている。

でもこの頃何故か昔より死にたいと思わなくなった。痛みを感じることが逆に私を現世に縛り続ける。生きねば、
生きねば、と。

私は床から起こしてだるさをたんまり溜め込んだ頭で、
昨夜炊いたお粥が暑さで腐っていないか確かめてみようと思った。鍋をあけるとぷん、とまだ甘い米の臭いがする。
火を入れ直せば大丈夫だろう。老人には歯がないのでどろどろのお粥を食べる間に胸元がべとべとになるのだった。

それでも前ほど絶望的で無くなった。現場は何も変わらないけど絶望的で無くなった。

何故だろうか。
分からないけど
思わず両手を見つめたら、夢の中から金剛石を持ち帰ったような確実な感触があったのだった。