直井くんは不遇の人だ。男性を好きになる質なんだけど学生時代からご両親に、その生き方を徹底的に否定された。
直井くんのご両親は、直井くんが何か精神の病気なんだと決めつけて精神科を巡礼して回った。
LGBT などのイメージが徹底的に涌かない世代だから致し方ないのないのかも
しれないのだが
問題はその為に直井くんがありとあらゆる苦痛と不名誉を被ったということだ、
直井くんはいとも簡単に薬づけにされていろんな病名を付けられて、
一時期は一人でトイレにも行けないくらいの衰弱に陥ったのだと話す。
何という不遇。
そんな彼が、
公園で暮らしてでもご両親から離れたいと思うのは、当然としかいえない。言えないだろう。
私だって同じことをされたらどんなことをしてしまうか自信はない。
“たしかに陽に陽をもってするのと
陰に陰をもってするのは私たちの間でも酷く蔑まれていたけれど、
でもみんなやっていたわ。
宮女も宦官も。ふつうのことだったわ。
あなた方もまだまだ同じように咎められているのね、
なんだか不思議な気がするわ。
だってわたしが生きていた頃なんて。”
頭の中に語りかけてくる榮妃の言葉に、私はどう答えたらいいのか分からなくて、黙ってコーヒーを飲む。
「別に咎がつく訳じゃないわよねえ。」
榮妃に、というか単純に独り言だったんだけど、
朝ごはんを終えてケイタイで予定の確認をしていた直井くんに聞かれてしまった。
「なんですか。」
別に。と私は霧のように空気を濡らす雨を見てのろのろコーヒーを飲んでいる。
「直井くんが早く出ていってくれないかあと思って。」
冗談だ。
「はい。」
直井くんも分かっている。私はごく個人的に彼の生き方が嫌いではないのだ。むしろ積極的にエールエールしたいと思っている。彼は信頼できる人物だ。
しかし恋人が出来たらそっちに移る、といいながら直井くんはもう1年以上私の住所に依存していた。
「出会いがないんすよ。」
と彼は心から申し訳なさそうに私に言う。私は冗談で言ったし彼もそれは分かっている。だが、
出会いが無いことに悩んでいる、
というのがこの会話の骨子であるのだ。
「まだ好きなんだからじゃないの?」
私が尋ねると、それを言われると辛いなあと苦笑して、
「まだ好きなんだからなんすよ。」
どうしてもあの人以上に人を想えないというか。
直井くんは長年片想いしていた男性が結婚してしまって(女性と。片想いの間に彼も他のお相手と付き合っては居る。)、
現在嵐のような傷心の日々を過ごしている。本当に本当に好きだったのだ。
だから私の言うことは冗談だ。それだけ好きだったひとをまだ好きなのに他の人なんて好きになれる筈がない。
「私んとこの先生に視てもらう?」
「いや、遠慮します。あの先生だと物凄く落ち込む事言われそうだから。」
と直井くんは笑った。
“ほんとうにふしぎね。
わたしが死んだのなんていったい。
どれだけむかしか知らないけれど、目覚めてみたらみんなわたしと同じことばかりしているなんて。”
榮妃が少女の様に澄んだ疑問を私に投げ掛けた。
私だって何を答えたらいいのか分からないのだ。