おばあちゃんは中国のお姫さまだったんだよ、と子供のころよく話してもらった。
九十歳を過ぎて体も頭も壊れてしまってもう会うこともない。
おばあちゃんとは言っても直系の祖母ではない。
私の祖母の叔母だか従姉妹だかいう、はっきり言って遠い遠い親戚のおばあさんである。
だが私の祖母ととても仲がよかったので私の家族と交流が深く、人格の広い人だったので皆から尊敬されていた。
おばあちゃん。おばあちゃん。と慕われていた。
今はただベッドに寝たまま起きてもいないし眠ってもいない暮しをしている。
そのおばあちゃんが何で中国のお姫さまだったかと言うと、
戦争の後に無くなってしまった昔の中国の恵親王家という所の王子様に、日本の華族の人がお嫁に行って、
生まれたのがおばあちゃんがだったのだそうだ。
だからおばあちゃんは子供のころお姫さまとして大陸で暮らしていたのである。
(当然そのせいで人性の中盤をとんでもない目に遇うことになる。)
おばあちゃんの実家とも言えるその恵親王家というのは、とある皇帝の三人目の皇子だった人を当主に置いて始まった皇室の分家。
云わば私の傍系の先祖とも言える家系であるのだが、
私は当主になった人よりその人のお母さんだった人の方ががぜん気になっている、この頃。
榮妃という名前で記録に残っている彼女は、臣下の男性と不倫をしたことが発覚して投獄され、後にそこで餓死したのだそうだ。
普通そんな人の子供なら分家の創始者になんかに成れないのだが、
皇帝を継いだ恵親王の兄以外に皇族男子の生存者が居なくなったために、(歴史は血生臭いのでそう言うことはよくある。)
血統断絶を憂慮した兄から名誉を回復されて皇族籍に復帰したのだそうだ。
そんないきさつの果てに生まれたおばあちゃん。
私ともほんの少しだけ縁のある遠い昔の不幸な女性。
歴史というのは人の血液に宿っているのだ。私がそれを実感するのは、この、最近のこと。