長編お話「鬼子のヒオリ」の53 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「おい間崎!!」
今度ははっきりと三郎彦の声が聞こえた。狗の声で人の言葉を怒鳴っているから、地鳴りと合わさって
ガルルルルルルルッ
と聞こえるんだけどでもそれは間違いなく三郎彦の人間の言葉だった。

間崎さんは血で染まる手に力を込めてよろけそうになった足を踏ん張った、
そしてまた右手を振り上げて、

「喰え、アレハバキ、
葉を持つものは聴け、
事従えて、火で射る、

と叫んだ。水晶の回りに生えていた普通の木がぶぶぶぶぶ、と震えて一斉に燃え上がった。青い空気に反映してあたりが夕焼けみたいになった。

「おい間崎大概にしとけよ!」
もたもたしてんじゃねえさっさとググノチをくっちまえ!

と三郎彦も怒鳴る。
「冗談だろ、これでもまだ抵抗出来るのかよ。」
間崎さんが首の傷を押さえて片膝を突いた。
木々が燃え上がった時鳥のヒナがいっぺんに泣き出した様な声がして
(水晶の泣き声なのだ)
水晶の郡柱がガタガタと揺すれると、幹から枝に掛けて無数のヒビが走っていって、

それが割れた所から更に太い結晶の枝が五本も六本も沸き出てきた。

クヒャーアッッ
と叫び声を上げて間崎さんの大蛇が撥ね飛ばされた。緑色の体に透明な針が一杯に刺さる。間崎さんの、今度は左肩から勢いよく血が吹き出す。

「クソッタレこのへな猪口野郎!!
そんな様で鏑木のウブスナを本気で飲めると思ってきたか!!」

ガア!!

と三郎彦が叫ぶと間崎さんは声を失った。その間にまたも地面から結晶が突き出す。大蛇は辛うじて自分に向かった牙のような鉱石から体を避けた。

と、間崎さんの足元からも牙の柱が駿足で延びてくる。
間崎さんは右手で青い牙から自分の体を支えた。そして、
「…俺の方が強い…」
と呻きつつ柱に抵抗して立ち上り、右拳を握りしめると、

俺の方が強い!
と叫んで水晶の結晶を叩き砕いた。その時私の頭の中に、

ムスヒ

と言う言葉が浮かんだ。私は頭の奥に白くて大きな花が突如花弁を広げたのを感じる。

私は咄嗟に左手で右手に文字を書き、それを両手で握りしめてから間崎さんの前に走り出た。

「おい鬼子!」
三郎彦の声が遠い。