間崎さんの「謝罪」が終わった次の夜。みいちゃんは鏑木のお爺ちゃんの夢の中でご馳走を作った。
昼間でもおかあさんもおじいちゃんも気配のない私の家は、鏑木のお爺ちゃんに飲み込まれるとなおさら誰の気配も無くなる。
でも今日は賑やかだった。普段は縁側にしかやってこないお爺ちゃんが神棚のある座敷に上がり込んでいて、私はみいちゃんをてつだって大きな座卓を出してきた。
「昔は、お祭りの時にこんな大きな座卓を使ってたのよ。」とみいちゃんは恐らく私が生まれる前みたいな頃の話をした。
その座卓の上に今鶏肉の照焼きとだし巻き玉子と筑前煮と鯖と大根の二田のとフキの煮付けとイカのお刺身が乗っている。
それからお櫃に入ったしめじご飯と日本酒がたくさん。
三郎彦は人の姿で大喜びで、勝手に煮物やたまご焼きをつまんでは稲兄さんにたしなめられている。
蓑笠を付けたままの鏑木のお爺ちゃんが上座に座り、隣にお酌をするみいちゃん、向かいに座った稲兄さん。
それぞれ向かい合って座っている私と三郎彦。
下座に間崎さんが座っていた。羽羽木は袋に入ったまま間崎さんの都なりに置かれている。
「じゃあ、ツミホロボシの終わったお祝いですしそろそろ始めましょうか。」
とみいちゃんが言って、お前はどれだけ食うつもりだ、と三郎彦が稲兄さんに頭はたかれていた。
「有り難く頂戴致します、水神さま。」
と言って間崎さんは手を合わせて頭を下げた。
「まあ、おめえも筋とおしたっちゅことだけえ、今日は遠慮せいでいい。」
と、右手を間崎さんに向けてひらひらさせながらお爺ちゃんが言った。はい、と言って間崎さんはまた手を合わせた。私は結局三郎彦が教えてくれなかった事を間崎さんが聞かなくてはならない。
いや間崎さんに向けてじゃなくてもいい。ここには皆が居る。きっと、今日なら誰かが教えてくれる。
私はお酒を飲んでご飯を食べ始めた誰もに対して、言った。
「ねえ。
私のおとうさんはいったいなんなの。」
「土地の産土だ。」
そう言ったのは鏑木のお爺ちゃんだった。
「クグノチ。樹木の神だよ。正確には産土の要衝に増えて神格を持った木の神だ。」
と間崎さんが続けた。
「ウブスナ? 木の神さまなんですか?
野原の化けものじゃなくて?」
「どうもこの辺りでは野迷い癖のある女の子に野槌が憑くと言う因襲があるみたいだね。
だからヒオリさんが生まれたときおじいさんたちは
野槌の子、と言ったんだね。そして土地神さまたちは特に否定はしなかった。」
「お爺ちゃんたち?」
私はみいちゃんにお酒をもらって黙っているお爺ちゃんを見た。難しい顔して茶わんを啜っている。
「野の子が生まれる前に、産土から通達があった。山のオヤジにな。」
「おやっさま?」
私が言うと三郎彦はたまご焼きを口一杯に含んで眉間にシワを寄せている。
「クグノチはもう土地の産土を支えきれないと言ったのだ。」