小説「ナ屋」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

ナ屋がここいらに来ていると言う噂が立っている。
珍しいことだ。ナ屋はめったに自分から行商しに来たりしない。私たち拝み屋家業は、なんだか面倒なことにならなきゃいいがなあ。そう思っている。

「お前、下手にナ屋に近づこうなんて思うなよ。」
と兄弟子が私にいった。
「しかし同業に一人居ると便利はべんりではないですか。」
ナ屋にはナ屋にしか出来ないことがある。

「ナの商いを簡単に考えるな。」
と先輩は言った。
「分かっていますよ。」
この頃よそからの出入りが盛んに成っていて塞ノ神がいかついておられるから、私たちはこれから鎮めに出掛けるところなんである。

ナ屋は名を買い取って、名を売る。名は金になる。でも拝み屋連中の間ではナ屋はあまりよく思われていない。
名のやり取りは全うな商売とは言えないからだ。
名とは胆だ。

猟師なら、きちんと獲物を始末して手順を断てて胆が抜けるようにしてから商売に手を出すのだが、ナ屋は違う。これはあくまで例えの話なのだが。

ナ屋は生きている人間から名を抜き取って、別の名を与えるのだ。

分かるだろう。

生きている人間から無理矢理胆を抜いて別の人間にねじ込むのである。
しかしそれで人はヒトをやり直せる。だからナ屋の需用というのがあるのだ。

別の人になりたいと言うものは多いからな。
名をネジ変えれば違う人間に成れる。しかしそれは自然の流れに反する行いだ。人はそうそう変われない、否、

変われては行けない。

だから我々は名屋を敬遠している、ただ知り合いに一人炒ると便利なんだが。