鏑木のお爺ちゃんが来るときは、いつも夜が明るい。
でも月はないのだ。いつだって。私は縁側の日除け越しに空を眺める。
もやもやと、
白ともあおとも分からない、雲だか霧だか分からない。空はそんな感じなのだ、いつだって。
でも辺りは明るい。お爺ちゃんが来ると家の辺りが明るくなるのだ。
明るいけど、夜なんである。昼の明かりは黄色いけど、お爺ちゃんがくると青くなるから。
周りの空気が蒼く発光しているのかな。
だから機嫌よくお酒を飲んでいるお爺ちゃんのヒゲは白の上にミドリが乗ったみたいにつやつやと光る。
「いよいよ鏑木にも器使がきたっちゅうことかいな。」
と、お爺ちゃんは不思議に機嫌よくお酒を飲んでいた。
「食べちゃうんだって、私のおとうさん。」
私は裂きイカをかじりながら体育座りして湯のみのお酒を飲んでいた。
「さみしいな。」
「なんだあ、野の子はさみしいだか。」
「だって、わたし、一回もおとうさんに会ったことないんだもん。」
「そっか、そっか。」
お爺ちゃんは私の髪の毛を撫でてくれた。
「野の子は親に会いたいか。」
「うん。」
「おまえの親はもうひとり居るがな。」
「おかあさん? おかあさんは、なんか違うのよ。」
「何がちがうだいや。」
お爺ちゃんがそう言ってまたぐぶりとお酒を飲み込んだとき、中庭の落ち葉ががさがさ言って、
間崎さんが入ってきた。トレードマークの羽羽木を担いで、青い明かりを割り引き開けるようにしながら、きょとんとした間崎さんが入ってきた。
「あなたは荒神か?」
なんでヒオリさんが居るの? と間崎さんはびっくりしてきるみたい。
「如何にも。
鏑木フナドノカミのお爺です。」
と、言ってお爺ちゃんは傘を被った頭を間崎に下げる。
「間崎さんてこんなことも出来るんですね、」
私は言った。ここは鏑木のお爺ちゃんの夢の中だ。
「まあいろいろと方法を知っているからね。」
間崎は羽羽木で肩をとんとんと叩きながら言う。
「荒神さまへの道筋を見つけたから入ってきてみたら、ヒオリさんが居るからびっくりした。」
ははは、とお爺ちゃんが笑う。
「孫に酌させるようなもんでしてな。お爺の道楽ですが。」
「お姿を拝しまして、慎んでご挨拶申し上げます。」
間崎さんはお爺ちゃんに向かって手を合わせる。
はい。と笑いながらお爺ちゃんも頭を下げた。