長編お話「その顔に、根の跡」4 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

翌日になると私はその前の飲み会のことを綺麗さっぱり忘れていた。
小川さんのことも首すじの酷い痣のことも、何もかも忘れていた。

そして仕事に精を出した。私はタウン情報誌の編集の人に同行してカフェレストランの取材をし、料理や室内の様子を撮った写真を何枚かもらって家に帰った(低予算だから編集のヒトがカメラマンも兼ねる)。

そして水性色鉛筆を使って写真の中のお皿を紙に起こす事に集中した。

それが済むとスキャナで仕上がった絵を取り込んで添付ファイルで取引先に送る。

その後で県の観光ショップから頼まれたお土産用絵葉書のラフカット作りに取り掛かった。

我々の街には戦争を生き延びた旧いデザインの建築物がいくつか遺されていて、自治体はそれを使って観光産業に一旗挙げたくて必死である。

しかし歴史のある建物とは言っても立地が悪いのとモノそれ自体が地味なことから、思ったような結果はまだ招かれて居なかった。
私個人は好きである。エレベーターも無いようなレンガ作りのレトロなビル達。

私はデジカメで撮った写真を何枚か同時にPCのディスプレイに開いたまま、建物のラフスケッチをずっと続けていた。

こんなことを繰り返していたらいつか個展を開きませんかなんて話しが舞い込んで来ないだろうか、などと考えながらただ鉛筆を動かしていた。
実際そういう人は居るのだ。地元出身でイラストで有名になって個展を開いた人が。

カフェ兼ギャラリーに仕事で行った時、いつでも声を掛けてくださいね、とは言われていた。
ただ自分の画力が到底そこまでに至っていないのは自分が一番良く分かっている。

私は絵葉書用の下書きを繰り返しながら、なかなか思ったような絵に出来なくて、気分を変えるためにコンビニにおやつを買いに出掛けたのだった。