長編お話「その顔に、根の跡」3 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「痣?」
その時私は、
小川さんがどうとかじゃなくて、私の中学時代、確かに其処に存在していたあんまりな痣の事を思い出していた。
それは赤いと言うよりは黒ずんだ、握り締めたゲンコツくらいもの大きさのある、

女の子の体についているにはあんまりな痣だった。

小川さんに至っては一向に記憶が湧いてこない。しかし、十四、五の時に目の前に間違いなくあったその酷い痣。
その痣が今私の過去の中で眠い息を吹き返していた。

同じ思い出を共有したのかどうか、
私達一同はしばし言葉が出なくて自分の持っているコップの中身に集中していた。
「僕、思い出した。生徒会に入ってたひとだったな。」
「ああ、そうだ。会計監査の二人めやってたんじゃないかな。」
やっちゃんと坂岡くんが隣り合いながらそんな風に話した。そしてそれをきっかけにして岡村くんが、

「うん。
まあ、あの、言っては何だが髪が長かったから呼び止められた時には気付かなかったんだが、その、な。
最中に見付けたといいますか。」
「フケツだわ、岡村くん!」
「宗田さんがいうと説得力ないな。」
と小田切に言われた。
「なんだよ人を公衆トイレみたいに言いやがって。」
「いい方、言い方。」
と坂岡くんに言われた。宗田さんだけはほんとに昔から変わらないよな、と言われた。
「で。何でこんな話題になったんだっけ?」
私は七杯めくらいのモスコミュールを頼みながら目の前のやっちゃんに聞いた。やっちゃんが岡村くんの方を見る。

「いや。
なんと言うのか。物凄く、やるせない気持ちになったんだよ。終わってから。」
「そりゃ酔った勢いで犯罪にてをそめてあまつさえ同級生の女の子だったんならな。」
と私は呑みながら言う。言い方、言い方。とまたしても坂岡くんに言われた。
「でも気を付けろよ。そう言うのって割りとヤクザが仕切ってたりするもんだろ。へたしたらやばかったかもしれないからな。」
坂岡くんは岡村くんにも声を掛けている。

「いや、そう言うことじゃなくてさあ。確かにあの痣を見たときに一気に覚めるものがあったんだけど。何だ。なんて言ったらいいんだ。
俺さ。別れた後小川さんからなんかものすげえ、搾り取ったような気分になったんだ。」
「搾り取られたのはお前の方じゃないのか。」
小田切が焼酎の、今度はお湯割りを頼んでいる。
「確かに、なかなかのお値段だった。」
「ばーか。」
私。
「バーカ」
小田切。
「でも何か違うんだよ。おれのような気がするんだ、掠め取ったのは。おれが彼女から何か掠め取ったような気がしてならない。
なんだか、そう言う、具合いだった。」
「ばーか。」
と私は言った。でも岡村くんの
掠め取った、と言う言葉が、目に浮かぶ黒い痣と不可解にマッチングしていた。