長編お話「東尾言語」の9 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「銀だとあっという間に酸化して真っ黒になってしまうのね。プラチナだったらそんなことないのに。
科学、得意だったはずなのになあ。なんでシルバーの指輪なんてくれたんでしょう。
ほら、ずっと付けてたからもうここの所色が沈んじゃっていつまでたっても消えないのよ。
私がいつか死体で見つかるとき、君がここで判別してね。」
「あなたの死体を見てからおれが死ぬなんて嫌だなあ。」
「嫌でもなんでもそうなさい。
私はちゃんとあの人の死体を見届けてから死んだわ。」
「まだ生きてますよ。充分に。」
「生きているように、見える? 私の事が?」
「あなたおれと寝るじゃないですか。死んだ人とは寝られない。」
「まだだなあ。まだまだ、まだまだ。君はまだまだほんとに若いのね。頑張りたまえ、前途ある若者よ。」
「前途はともかくその中にあなたが入ってるとうれしいっす。」
「うーん。迫って来るねえ。でもだめ。」
「ダメですか、おれ。」
「そおよ。だめだめ。私が生きてるように見えてるあなたではてんでだめだめよ。」
「おれにはあなたがここで生きてて血が通ってて肌が熱いように感じる。」
「そんな目に見えるものに拘ってるからだめなのよ。
難しい本ばっかり読んでるのに感受性の限界が割合かんたんなのね。」
「あいつが死んだからってあなたまで死人になること無いじゃないか。」
「ふうん。じゃあ君は私が死体になって発見されたあとも学校の友達と笑って唄って楽しく生きていけるのね。」
「あなたが死んだらおれもしんじゃいます。」
「はい、じゃあこの会話終わり。コーヒー飲みたくなったの。買ってきて。
続けても意味のない会話は極力止めましょうね。お互いの関係の為に。」
「おれとあなたの関係ってこれからどうなるんですか。」
「それはあなたが望む限りこのままなのよ。」
「このまま。」
「人の一生に叶う願いは限りがあるのよ、
山口くん。」