そこには匂いが無かった。
感じたままを素直に伝えたら、死神は露骨に嫌そうな顔をした。
「冗談を言うんじゃない。消しているんだよ。」
本当なら臭いなんでもんじゃないんだ。
「君は一体、僕の技術を甘く見ている点がいただけないね。」
と死神は言った。
野戦病院、という言葉は今は使わないのだろうか。私にはその表現がぴったりと来るのだが。おそらく正式な名称は
(こんな場所に名称もなにもないとは思うのだが)
難民キャンプの救護所
でいいのだと思う。しかし野戦病院という言語からしてすでに焦げて煙をあげて感じられるように、
ここでもあたり一面煙で圧迫されているようだった。
火が焚かれているという訳じゃない。
人なのだ。
人がみんな焦げたようになっていて、それは肉体よりも精神が燻っている、くすぶるからには一度大火に燻されたような、そうした人たちが哀しい動物がそうするように、ただただ身体を寄せ合って、ここに集まっている。
ある人は頭の足に手当された形跡がある。ある人は為すすべなしといった具合で地べたに転がされている。
子どもも少なくない人数がそこにいた。
子どもは必然というもので、街一つ国一つ戦火で撫でられたような場所では、ひとところに集められる家族の中に子どもがいない訳には行かない。
子供達はなにもしていなかった。何をする体力も無いという空気を衣服にしてただそこにいた。
何もしない彼ら子ども。動きもしないし喋りもしない。
なにかショッキングなことがあったからというよりも、
もうなんだってしてくれ、というような投げやり差でもって、彼らはなんにもしないでいる。そして目だけがギラギラしていた。
目というのは脳である。脳というのは生命である。なので彼らは、まだまだ自分が生きているのだ、と主張するために、余計なエネルギーを全部削ってその目をぎらつかせているように私は考えた。
そして哀しい人たちはしっかりとそこにいた。
悪魔の雛、というものはこんな姿をしているのかもしれない。
と私は思い、思ったことを死神に問いかけた。
「あながち遠くもないね。」
と死神は言う。
「こんな泣き声をあげている人間が、やがて悪魔になるところを私は何度か見たよ。」
確かに
悪魔の雛が卵から孵ったらこんな風に泣くんじゃないだろうかとしか思えないほど、その彼たちはけたたましく泣いていた。
凶器であることを知らずに凶器をわし掴みにして、訳も分からず振り回している。そんな泣き声だった。
続きます。