小説「忘れるポスト」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

どう言えばいいのかな。
都市伝説かな。それか、先生たちの策略かな。もしくは上級生のいたずらか。
これは小学校の中庭にあったポストの話だ。
何人か前の校長先生が古くなった郵便ポストをもらってきて、中庭においた。

それは旧式の赤い円筒のポスト。
でもポストとしての機能は果たさなかったのだ。
誰かからの手紙を、誰かに届けるためのジャンクション。
そういう事には使われなかった。何のためにも使われては居なかった。何の意図があってもらわれて来たのかも、誰もしらない。

いや、違うな。
一部の生徒は頻繁に使っていたのだ。用途があったから。
噂があったから。

中庭のポストに入れた手紙は消えてしまう。

あれはどうしてだったのかな。

円筒の腹に鍵のない扉が付いていて、そこから中の手紙が取り出せるようになっている。

でも実際に取り出された手紙はない。

ポストには初め、思わしくない内容のテストが入れられていた。親に見せたくないヤツが。
そしてそれを知った奴らが面白半、ポストの扉を開けてみた。

何にも無かったのだ。

確かにテストを入れた奴は居た。
しかしポストの中身は空だった。何にも入って居なかったと言う。

思えばただゴミとして捨てられただけだったかもしれない。
それでも、中身が消えるポストは使われ続けた。

忘れたいことを手紙に書いてポストに入れたんだ。
ポストに入れたら消えてしまう気がして。
自分たちの、忘れたい事が。

だからみんなポストを使ったのだ。忘れたいことを手紙に書いて。

手紙の行方は結局分からない。
分かろうとする意図もない。大切なのはあの頃忘れてしまいたい事が沢山あったと言う、そのこと。
もし、ポストを使っていなかったら。
忘れるために手紙を書いていなかったら。

今は今より少し違っていたかもしれないと、ふいに考えることがある。