小説「三王三佳言」 | 文学ing

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

森には見えるものと見えないものがあります。
見えないものが見えたときはいけません。すぐにおうちにお帰りなさい。そういうときに森にいてはいけません。見えないものが見えたとき、森に居てはいけません。
見えないものは、“見えない”ということに意味があるのですから。
でもそうそう見えないものが見えるわけではありません。
そういう意味では安心です。見えないものはそうそう姿を現さないので、
安心なのありました。
森にあって見えないものとは。
いろいろありますが、
例えば三王と樹木の王の話をしましょうか。
三王は森の大変おそろしいお方です。
そして樹木の王は三王よりも更におそろしいお方です。
だから三王が姿を見せるときに、森にいてはいけません。三王の姿を森で見たら、それはたいへんおそろしいことになるでしょう。
樹木の王とはなんでしょう。
樹木の王とは言いますが、実際樹である訳ではありません。樹の姿で現れるのでもありません。
ですが、森にあって
“森であるということ”を支えている存在であります。
柱のような存在です。
なので樹木の姿に見えたりするのです。柱のような存在です。
あたかも人の体から背骨を抜いてしまったら
人が立って歩けなくなるように、
樹木の王も森にとってそういう存在でありました。
だからこそおろしいお方であるのでした。
そんなおそろしい方の所に、
またもおそろしい三王が集まるのだから、それはたいへんな一日一夜でありましょう。
三王が樹木の王を訪れるとき、それはたいへんおそろしい夜でございます。
これは私たちの誤解ですが、
森はいつまでも在るわけではありません。
いつだったか顕れて、いつかは無くなってしまうものであります。
それは私たちの一生よりは大層長い時間が掛かりますから、私達は森が消えてしまうことに、気がつかないだけなのです。意外に森は、いつかは消えてなくなる物なのです。
三王が樹木の王を詣でるのは、だから実はとても億劫なことなのでした。
樹木の王が三王を呼び集める夜、
それは樹木の王が森を限りと決めた夜なのです。
これより先に、森は消えてなくなる、
そういう夜なのであります。
なので樹木の王は三王を呼び集めて、
この後それぞれどうするか
それを問うて訊ねるのでした。
しかし三王はすでに「三佳言」というものを樹木の王から授かっていますから、
問われるまでもなく“さき”は決まっているのですが。
樹木の王はこう訊くでしょう。
「鱗王はどう思うか。」
鱗王は大変哀しみ深い王です。森で一番多いぶん森で一番弱いものを抱えた王です。
鱗王は応えるでしょう。
「私は“忠節”を得た故に“襲奪”も得たものです。森のなるように従わないことがあるでしょうか。」
樹木の王はこう訊くでしょう。
「翼王はどう思うか。」
翼王は大変狡猾な王です。森で一番利口なぶん森で一番敵を得た王です。
「私は“自由”を得た故に“依ん処”を失ったもの。森の如何は、もとよりかかわりの無いことです。」
樹木の王はこう訊くでしょう。
「牙王はどう思うか。」
牙王は大変強力の王です。森で一番強いぶん森で一番蔑まれている王です。
「私は“力”を得た故に“侮蔑”をも得たものだ。であるからには、私の一派は最後まで抵抗するだけです。」
さて樹木の王が森を限りと決めてしまうと、
地すべりが起きるか鉄砲水が起きるかで森はなくなってしまうのです。
山王はあらかじめ頂いている佳言に従って、それぞれ末を生きていくことが決まっているのでした。
だって三つの佳言のどれを選ぶかは、三王が自分で選んだことなのですから。
おそろしいことです。
大変おそろしいことであります。


前に自分で書いたものに、
違うアングルが浮かんだので
もう一回造りました。
前回のはこちら↓
三王会の夜