小説「遠いところからきたもの」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

祖父は旅行が好きで、
おばあちゃんに弁当を作らせては、
バスに乗って行ける所ならどこまででも行く人だった。
そして私は当時綺麗なきらきらした原石(というのだろうか)
に見せられていて、
紫水晶だの、アベチュリンだの、カーネリアンだの黒曜石だの、
そういうもののうそっぱちやら価格の低すぎるものとか
そんなんばっかりおじいちゃんがお土産にくれたのは
逃れがたい運命だったのかもしれない。
不景気が始まった頃から
ごてごてした指輪を買える人が少なくなった。
代わりに伸びてきているのがパワーストーン市場なんだそうです。
「もうけのからくりがね、」
と教えてくれたのが、
まさにそんなパワーストーン業者で店員やら営業をしている
中学の時の友人だった。
「パワーストーンで開運、とか神秘の力、みたいなタイトルの本読んだことあるでしょう?」
「ない。」
彼女が問うて、私はそう応える。
「タイトルくらい見るでしょう。」
「それはある。」
呆れがちな彼女が聞いて、私はそんな風に返事する。
「うそっぱちよ、あんなの。」
「そうなの?」
「だいたい誰が主張してる理屈だと思う?」
と彼女は問うた。
占い師のひととか?
と私は返事をする。
「占い師は何を根拠にしているの?」
と彼女が聞く。
「占い学校の先生。」
私がそういうと、彼女はやっぱりな、という表情で悲しげに聡明な眉毛をかっこよく曇らせた。
「あんなものはたんなる屑石よ。」
彼女の「からくり」は以下のようなものである。
形が悪かったり、透明度が低い宝石は装身具としての価値が低い。
カッティングして指輪やネックレスに加工する手間を考えると、
「これ欲しいな」
と思う人がいないから割りに合わないのだそうだ。
そういう色の濃い屑石に目をつけた人が居て、
「神秘の力」
という付加価値をでっち上げて、廉価な石を立派な値段で売っているのだそうだ。
「だから業績も伸びるってわけよ。」
と彼女は言うのだった。
私が子どものころ住んでいた、今はぼろぼろになって放置されている空き家の、おそらくぐっちゃぐっちゃになっているはずの元の子ども部屋に、おじいちゃんがお土産にくれた
宝石
が入った宝箱が今でもあるはずである。
「掘り出しもの」
のつもりで、孫が喜ぶと思って、おじいちゃんが叩かれ買いしてきた
一銭にもならない石ころが、
でも、それでも今でもきらきらしたまま、
私の過去の残骸の中で眠り続けていてくれることは
どうも、私を励ましてくれると思うんだけど、
そういえばあらためて理由を考えると
人に説明できない自分がいることを
私は良く分からないまま理解する。