小説「川本くん」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

30過ぎると鮭の遡上といっしょで、
みんな地元に帰ってくる。少なくとも帰りたい気持ちにはなると思う。
そんな思いが共通した元同級生3人と久しぶりに再会して、
楽しい飲み会をした夜のことでした。
「なんで大学生って家呑みするとバツゲームしたがるのかなあ。」
という話題で盛り上がっていた。
なっちんと呼ばれていた(呼ばれていた、んじゃなくて今でも会えばなっちんなんだけど)
女が救いがたいほどばかばかしいエピソードを語った。
「ご飯つくったり、つまみ買ってきたりして酒飲んで、有る程度飲んじゃったらちょっトランプとかしようってなるじゃない。
その時はウノだったんだけどね、よし、バツゲーム何にする、ってなんか、自然にそんな話になってね。
一番まけた奴が、グロスとシャドウぬったくってコンビニ行って来い!
って話になったのよ。」
なっちんはお酒は強いんだけど結構まっかかになるほうで、その時もまっかかになりながら楽しそうに話していた。
話の中身は大学生でも、喋ってる人間は30過ぎのばばあになっているんだから、
精神と肉体の間にちょっとした時間軸の齟齬ができてるのを、妙にぼんやり私は見ていた。
「それで、夏だったから。最後ね、Nくんていう男子がまけちゃったんだけど、女の子がもってた化粧みんな出してきてさ、ものすごい化粧して付けまも付けてさ。
もちろん額に肉って書いてね。
“コンビニでがりがりくんかってレジの人に温めてください
て言え!”
なんてみんなで外に追い出したのよ。
それで、飲んでたこの家のまどからすぐにコンビニがあって、みんなで様子見てたんだけど、明らかに店員さんががっちがちになってるのが分かって
おもしろかったよお、あの時は。」
なっちんが話すのを聞いてあとの二人もわあわあ喜んでいた。
深夜1時になっていたからもう全員出来上がっていた。
たのしい酒の夜だった。
同級生と、久しぶりの飲み会は楽しかったんだけど、
なっちんが話したくだらない思い出は、私があの時気にもしなくて、
覚えていたこと自体不可思議な、
ある日の私の飲み会の記憶を呼び起こしたのだった。
もちろん、その時の私たちもバツゲームをしていた。
まさしく、なんで大学生って、酒が入るとバツゲームつきでなんかしたくなるんだろう。
私たちがその時やったのは、
“マッチいっぱつ点け”
という面白くもなんとも無いゲームで、現場だった居酒屋に備え付けてあったマッチと灰皿を用いて行われていた。
失敗した奴は問答無用で、
テーブル上のありとあらゆる液体を混ぜたものを飲まないといけない。
みんなが頼んだ酒。
ビール、カンパリソーダ、モスコミュール、ハイボール。
ピーチサワー、ウーロンハイ、飲めない人は野菜ジュース(?)
日本酒や焼酎や、もちろん餃子のタレとか醤油とか酢とか、
玉子スープとか、
まさにありとあらゆるものが混ぜられた二度とお目にかかれないような液体を前にして、
私はマッチをいっぱつで点けるのに失敗したのだった。
と、
とたんにべろべろ仲間達は喝采して、いっきいっきいっきいっき
のシュプレヒコールが始まる。
(飲み屋でのいっきの強要は犯罪ですよ。)
中ジョッキに入れ込んであったんだけど、
その液体は色と言い匂いといい、とてもじゃないけど口にいれて
正しいもののはずが無かったから、
もちろんおおいにためらっていたらどうしてなのか隣にいた
同じサークルの川本くんがおもむろに、
その悪魔の飲み物みたいなジョッキを横取りして
一気飲みして
トイレに駆けて行った。
1、2、3、
みたいにテンポのいい動きだったので、盛り上がっていた場が一時中断されてみんなぽかんとしていた。
でもべろべろの人間というのはけっこう切り替えが早くて、
川本くんが戻ってくる頃にはもう次のペナルティが決まっていたのだった。
そんなことを、
深い意味もなく思い出したんだけど、
はたしてあの時の川本くんに、
深い意味は、
あったのだろうか?
と急に思う中年女の夜である。