小説「本性」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

それが12歳になるくらいから
彼はもうあからさまにいらいらしていた。
中学に入る前である。
いいかげん言語の使い方も達者になっている。
その娘が、間違いなく自分に似ているということが顕かになってしまったので
彼はいらいらしていた。
女にしては上背があり、骨も太い。
しかし年柄余計な肉が付かないから、どうにか娘に見えていた。
しかし実態は彼にそのままだった。
彼は娘が育つに連れて甚だしく気に入らなかった。
こんな、
自分に似た子どもを得るつもりはなかった。
一番最初に生まれた娘は、丸く肥えていかにも凡庸だったから彼は喜んだ。
これなら自分とは違っていらんことに悩まず、
ただ生きることに楽しんで過ごしてくれるだろうと。
そればっかり念じて最初の娘をあいして過ごしていた。
だから最後に生まれた娘のことなんかほとんど思考の端にも上らなかった。
それがうかつだったと言うべきか、
育ってみたら最後の娘こそ彼自身にまるきりおんなじであったのだった。
姿といい、口といい、行いといい、脳といい。
まるっきり彼におんなじに育っていたのだった。
知らないうちに。
最初の娘にかまけていたとはいえ、これは彼にとって大変痛手なことだった。
おれとおなじでなければどんなでも良い。
そう思って子どもを作ったのに、まさか最後の最後で自分と同じものが出来てしまった。
彼はいらいらして、
だからいっそ哀しくなってしまった。

こいつはおれと同じように悩むぞ。
そう思えばこそ、情けなく、また親であるから、可愛くもあった。
彼はつまらない生き方をした男である。
つまらない生き方の中に情けない記憶を持つ男である。
そしてこの自分にもっとも似た最後の娘は、同様に情けない思いをして同様につまらない思いをするに違いない。
なんと言っても彼自身にそっくりおんなじなんだから。
そう思うと、
彼は無分別でも最後の娘のことが疎ましく思えて、ならないのだった。
そういうある日、彼が床に付いていたら、変なものが目のうちに現れた。
頭が人で、肉体が鳥類であった。
頭の部分は骨ばって白い冷ややかな男ので、黒々とした長い髪が畳にまで届いていた。
体の部分は鶴のようにりゅうとした姿を、とりどりの羽で飾っていた。
このような不気味なものは、目を起した彼に次のように話した。
「おれは貴様と同血の肉体に宿った魂魄の本性だ。
貴様はさみしさのために自分と同じものを望んで肉体を生んだが、
命はこの斯くのごとく余所からもたらされている。
よっていずれは魂魄がことごとく貴様から離れていくんだから、
そのことを心して置けよ。」
と言ってその変なもののマボロシは消えた。
彼は非情に悟った。
いずれさっきの白い顔をした男が現れて、
最後の娘を連れて去っていくんだろうということが非情に悟られた。
まさしく、最後の娘こそが彼の唯一の同血である。
しかしおんなじなのは結局血肉だけだったんであって、
精神までもたらすことは出来なかったのだ。
ああ、おれは結局ひとりっぽっちに生まれて、それでお仕舞いなんだ。
そう思って彼は、
なんともいえない思いのまま未明の時に沈んでいった。